オーバークロック界の著名人、Der8auerことRoman Hartung氏がAMD Ryzen 9 9950X3Dの殻割りテスト結果を公表した。テストでは、ヒートスプレッダを取り外してダイに直接冷却を施すことで、Cinebench R23のマルチスレッド性能が最大9%向上し、同時にゲームベンチでも類似傾向が確認された。しかしその代償として、消費電力は最大73%増加という結果に。

一方で、殻割り後のチップを標準設定で運用することで、ピーク時温度が23度低下し、消費電力も20W削減されるなど、冷却効率と静音性を重視する層にとっては有力な選択肢となり得る。パフォーマンス一点突破ではなく、実用性と耐久性のバランスを探る上で注目すべき事例といえる。

殻割りによる冷却性能の飛躍とその実証データ

AMD Ryzen 9 9950X3Dを対象に行われた殻割りテストでは、熱伝導効率の劇的な改善が実証された。Roman “Der8auer” Hartung氏は、ヒートスプレッダを取り外してダイへ直接冷却を施すことにより、ピーク時の温度を88度から65度へと大幅に引き下げた。これは実に23度もの低下であり、同一の液体クーラーと環境設定下での結果である点からも、物理的な熱障壁を除去することで得られる冷却効果の大きさが浮き彫りとなった。

さらにこの改造により、Cinebench R23ではマルチスレッド性能が最大9%向上した一方で、負荷時の消費電力は約290Wに達し、殻割り前に比べて73%の電力増という結果も得られている。つまり、冷却によるパフォーマンス向上と、それに伴う消費電力の上昇がトレードオフの関係にあることが確認された。これは、性能強化を求める者にとって無視できない代償であり、冷却力が高まればすべてが好転するわけではないという現実を突きつける。

殻割りという行為は、単なる改造ではなく、CPUの性質と限界を浮き彫りにする重要な実験でもある。そこには、見た目の数値だけでなく、電力効率やシステム全体の安定性といった、実使用に直結する要素への考慮が求められる。

性能か効率か 改造Ryzenが提示する新たな選択肢

Der8auer氏の検証結果は、ハイエンドCPUを取り巻く選択肢に新たな一石を投じた。殻割り後のRyzen 9 9950X3Dは、フル性能を引き出さなくとも、温度と電力消費において非常に効率的な動作を実現している。出荷状態よりも約20W少ない電力で、なおかつ23度も低い温度で動作するという事実は、冷却性能の強化が必ずしもハードなオーバークロックを前提としないことを示唆している。

多くの自作PCユーザーにとって、静音性や安定動作はパフォーマンス以上に重視すべき要素である。殻割りされた9950X3Dは、標準設定でもその実用性を高める手段となり得る。性能を極限まで追い詰めるのではなく、冷却と消費電力の効率化によって得られる“余裕”こそが、長期的な運用には適していると考えられる。

また、今回のテストでは、実用環境において高い熱と電力負荷を避けるという視点が注目されている。殻割りという一見リスクを伴う行為が、逆にハードウェアに優しい運用を可能にするという逆説的な現象がここに存在する。あくまで慎重な作業を前提とするが、冷却強化を目的としたカスタム化が、今後の選択肢として広がりを見せるかもしれない。

Source:Tom’s Hardware