英Arm Holdingsが、2025年末までにデータセンター向けCPU市場でシェアを現在の15%から50%へ拡大すると予測している。電力効率とソフトウェア互換性の優位性を武器に、NvidiaやMicrosoft、OpenAIと進める5000億ドル規模のStargateプロジェクトにも深く関与しており、AIインフラ分野での存在感を高めつつある。
第3四半期の売上は前年同期比19%増の9億8300万ドル、純利益は12%増の1億5000万ドルと好調で、P/Eレシオも調整を経て60倍へと低下。株価は年初来で28%下落しているが、ライセンスモデルによる収益安定性と拡大する顧客基盤は中長期的な評価を支える材料となる可能性がある。
一方、Qualcommとの係争やスマートフォン依存などのリスク要因も残り、今後の業績動向には慎重な注視が必要である。
AIインフラとデータセンター市場でのArmの台頭

Arm Holdingsは2025年末までにデータセンター向けCPU市場で50%のシェア獲得を見込んでおり、その背景には電力効率とソフトウェア柔軟性に優れたArmアーキテクチャの台頭がある。
特にArmv9ベースの設計がデータセンター用途で広がりを見せており、これがロイヤリティ収入の過去最高更新にも直結している。2023年10〜12月期の決算では売上が前年同期比19%増の9億8300万ドル、純利益が12%増の1億5000万ドルとなり、ハードウェア依存ではなく設計供与を基盤としたビジネスモデルの強靭さが際立つ。
AI関連では、Nvidia、Microsoft、OpenAIと連携する「Stargateプロジェクト」への参加が象徴的で、AIサーバー向けのNotleby部門の成長がその成果の一端を担う。
また、NvidiaのDIGITSスーパー・チップやSamsungのAIスマートフォン「Galaxy S25」への技術提供も、Armの影響範囲がスマートデバイスからクラウドインフラへと拡大している現状を示す。こうした動向から、従来のスマートフォン市場依存から脱却し、AIインフラという次の成長領域における優位性を固めつつあると読み取れる。
株価の調整とP/E水準が示す中長期的な投資余地
Armの株価は過去52週間で28%下落しているが、この調整によりバリュエーションは相対的に現実的な水準に落ち着きつつある。
具体的には予想株価収益率(P/E)が1年平均84倍から60倍に低下しており、依然として同業他社よりは高いが、急成長企業としての期待が価格に折り込まれている状況である。ライセンス供与によるロイヤリティモデルが継続的なキャッシュフローを生み、収益の安定性を高めていることも投資判断における重要なファクターとなる。
市場ではアナリスト29名中18名が「強い買い」と評価し、12カ月の平均目標株価を163ドルと見積もっている。現在の株価水準から85%の上昇余地があるとされ、財務健全性と成長性を同時に有する銘柄として注目を集めている。
一方で、Armv9に基づくロイヤリティの比率が3四半期連続で25%に据え置かれており、新規ライセンスの加速が必須となる点や、中古スマートフォン市場の拡大による端末出荷台数の伸び悩みも無視できない要素である。
クアルコム訴訟とスマホ依存が生む成長への不確実性
Armは現在、Qualcommとの間でライセンス権利を巡る訴訟を抱えており、米国陪審団は2点でQualcommに有利な判断を下している。
この係争によってArmは年間5000万ドルの収入を失う可能性があり、知的財産の管理と保護が今後の成長戦略において決定的な要素となる。さらに、Qualcommは複数地域で反トラスト法違反を申し立てており、Armは規制リスクや財務面での制約を受ける恐れがある。
もう一つの不確実性はスマートフォン市場への依存である。世界中のスマートフォンの99%以上にArm設計が用いられている点は強みである反面、新品出荷数の伸び悩みや中古端末の台頭が成長に影を落とす構図となっている。
実際に、中古端末が市場の5分の1を占めており、スマートフォン中心のビジネスモデルに依存するリスクは依然として高い。データセンターやAI分野への事業転換が加速しなければ、中長期の収益基盤に不透明感が残ることとなる。
Source:Barchart