オークリッジ国立研究所のスーパーコンピュータ「Frontier」により、AMDのInstinct MI250X GPUが従来の25倍以上という驚異的な速度で数値流体力学(CFD)シミュレーションを完了させた。対象はベーカーヒューズが開発中の次世代ガスタービンで、Ansys Fluentを用いて22億セル規模の軸流タービンを解析。従来38.5時間かかっていた処理が、AMDのアクセラレータ1,024基とEPYC CPUによりわずか1.5時間に短縮された。

Frontierは初のエクサスケール級マシンとして設計され、37,632基のInstinct MI250Xを搭載する。今回の記録はその計算能力の一部にすぎず、さらなる高速化の余地も残る。GPU市場で支配的なNVIDIAに対し、AMDが持つ高性能・低コストの組み合わせが改めて注目される展開となった。

FrontierとInstinct MI250XがもたらしたCFDシミュレーションの革命

今回の記録は、スーパーコンピュータ「Frontier」とAMDのInstinct MI250Xアクセラレータがタッグを組んだことで実現された。Ansys Fluentを用いたCFDシミュレーションでは、ベーカーヒューズが開発を進める次世代ガスタービンの22億セルに及ぶ大規模な解析が行われた。従来は3,700コアのCPUを使い、処理に約38.5時間を要していたが、今回は1,024基のInstinct MI250XとEPYC CPUの組み合わせにより、わずか1.5時間での完了となった。これは従来比で25倍以上の高速化となり、世界記録レベルの性能である。

注目すべきは、この成果がFrontierの全体性能のごく一部しか使っていない点にある。Frontierは37,632基ものInstinct MI250Xを搭載しており、より高度で複雑な処理への適応も可能とみられる。エクサスケール級のスーパーコンピュータが、商用規模の解析にここまで活用される事例は極めてまれであり、研究機関や製造現場における設計開発プロセスに大きなインパクトを与える可能性がある。設計の改良や検証を数時間単位で繰り返せる環境が整えば、これまで不可能だったようなアプローチも現実味を帯びてくる。

なぜAMDはAIよりもCFDで真価を発揮できたのか

AMDのInstinct MI250Xは、AI分野でNVIDIAに押されがちな状況にあるが、今回のようなCFDやHPC(高性能計算)領域ではその真価を示す形となった。Ansys Fluentとの組み合わせは、並列処理性能とメモリ帯域の広さが重視されるCFDにおいて、Instinct MI250Xのアーキテクチャが高い相性を持つことを示唆している。特に、GPUとCPUの密な協調動作が求められる解析タスクにおいて、EPYCとの組み合わせは設計段階からの連携が効いていると考えられる。

一方で、AIデータセンターの多くは依然としてNVIDIAを選択しており、その背景にはAMDのソフトウェア面での課題がある。Tiny Corpの「TinyBox」が抱えた安定性問題はその一例であり、いくらハードウェアが高性能でも、ソフトが追いつかなければ選ばれないという現実を浮き彫りにした。もしAMDがソフトウェアの整備を強化し、信頼性を確保できれば、今回のような成果をAI分野にも展開できる可能性がある。ただし、それには継続的な対応と実績の積み上げが不可欠である。現状では、特定の高性能用途において確実な選択肢となりつつある段階といえる。

Source:Tom’s Hardware