Nvidiaは、物理演算エンジン「PhysX」の全ソースコードをBSD-3ライセンスの下で公開した。これにより、これまで非公開だったGPUシミュレーションカーネルも含めた完全なオープンソース化が実現した形である。剛体、流体、変形処理を含む500以上のCUDAカーネルがGitHub上に公開され、古いゲームの互換性維持や新規プロジェクトへの応用が現実味を帯びた。
一方で、PhysXはその構造上Nvidia GPUへの依存が強く、他社製ハードウェアとの互換性に難を抱えていた。また、Blackwell世代以降では32ビット版PhysXのサポートが打ち切られ、旧作ゲームの再現に課題が生じている。こうした制約を乗り越えるべく、コミュニティによる変換レイヤーの開発が期待される状況にある。
今回の全面公開は、PhysXをゲーム開発の真のユニバーサルSDKへと押し上げる転機となる可能性を秘めている。
PhysXの完全公開がもたらす開発環境の変化と継承可能性の向上

NvidiaがPhysXエンジンをBSD-3ライセンスのもとで完全公開したことで、GPUカーネルを含むすべてのコードが一般開発者の手に渡った。これにより、開発コミュニティは剛体力学や流体表現といった高精度な物理演算の核となる処理をカスタマイズできるようになった。
とりわけ、Flowなどのリアルタイム流体シミュレーション機能のシェーダー実装が開示されたことは、ゲームに限らずインタラクティブなCG制作や研究用途への転用にも影響を及ぼすものとみられる。
PhysXはおよそ1,000本のゲームで利用されてきたが、旧バージョンとの互換性維持は常に課題であった。今回、GPUシミュレーションの中枢にあたるコードが公開されたことで、古いタイトルの修復や移植が現実的な選択肢となった。特に、Modderにとっては従来閉ざされていた低レベル処理へのアクセスが可能となり、ゲーム保存という文化的側面にも資する動きが加速する。
技術的価値に加え、商用化を目指すスタートアップにとっても、信頼性のある物理演算基盤をゼロから構築するコストを回避できる点は見逃せない。PhysXの公開は単なる「解放」ではなく、物理シミュレーションの普遍的資産化に向けた大きな一歩と位置づけられる。
CUDA依存の限界とBlackwell以降の課題が突きつける選択肢の再検討
PhysXの技術基盤がNvidia独自のCUDA APIに深く根ざしていることは、かねてから普及の妨げとなってきた。多くの現代ゲームエンジンがGPUベンダーに依存しない物理演算ライブラリへと移行する中、PhysXは他社製GPUとの互換性に乏しく、開発現場では採用の判断に慎重さが求められていた。今回のオープンソース化も、コードの可視化には寄与するが、CUDA依存の構造そのものを即座に打破するものではない。
さらに深刻なのは、最新のBlackwellアーキテクチャにおいて、Nvidiaが32ビット版PhysXの公式サポートを打ち切った点である。これにより、『Mirror’s Edge』や『Borderlands 2』など一部の旧作がRTX 50シリーズ環境で著しくパフォーマンスを落とす事例が報告されている。最新技術の導入がレガシー資産の切り捨てにつながる典型であり、技術選定の難しさを改めて浮き彫りにした。
一部のユーザーが旧GPUを2枚目として搭載するなどの対応を取っているのは、互換性確保のための苦肉の策に他ならない。PhysXの今後の持続的利用には、Nvidia自身がこの二重性をどう整合させるかが問われている。公開されたコードを基に非CUDA環境への変換層が構築されるかどうかが、真の意味での「ユニバーサルSDK」実現の試金石となる。
Source:TechSpot