AMDの最新GPU「RX 9070 XT」に搭載されたRDNA 4アーキテクチャに関し、メモリ温度の異常上昇が技術メディアIgor’s Labの調査によって明らかとなった。調査対象のSapphire製カードでは、静音性を優先する冷却設計が一因とされ、同カードの最大温度は90°Cを超えていた。
この問題に対し、VRAMやMOSFETへの高性能サーマルパテの適用により温度は85°C未満に低下。調査結果はSapphireに共有され、同社は次回の製造バッチで温度管理目標の見直しを検討している。ハードウェアの信頼性と冷却効率の両立を巡る設計哲学が再考されつつある。
ユーザーからの実地報告がメーカー側の対応を促した今回の事例は、熱設計に対する透明性と継続的な品質改善の重要性を浮き彫りにしている。
Sapphire製GPUにおける冷却設計の特性と温度上昇の実態

AMDのRDNA 4アーキテクチャを搭載したSapphire RX 9070 XTにおいて、VRAM温度が90°Cを超える異常が確認された。この温度上昇は、静音性を優先する設計思想に起因するもので、ファン回転数を抑える制御が冷却性能に影響を与えていた。
Igor’s Labのテストでは、XFX Mercury RX 9070 XTと同条件で比較され、XFX製品がファンを積極的に回転させていたのに対し、Sapphire製品は高温許容の姿勢を取っていたことが浮き彫りとなった。
GPUの設計には消費電力や騒音、発熱といった複数要素のバランスが求められるが、今回の調査ではその設計判断が温度リスクを招いていたことが数値として示された。
110°Cというしきい値を超えると性能抑制機能が発動し、MOSFETやメモリモジュールの一部が無効化される可能性があるため、安定性確保の観点からも看過できない課題である。特に高負荷時の長時間運用においては、許容限界に近づくリスクが無視できない。
今後、冷却性能と静音性のバランスが改めて問われるなか、ハードウェアメーカーの設計方針に対する利用者の目線はますます厳しくなると見られる。
高性能サーマルパテの効果とSapphireの製造方針への影響
Igor’s Labによる独自の分解テストでは、Sapphire RX 9070 XTに対し高品質のサーマルパテを用いてVRAMおよびMOSFET部分の熱伝導性を改善した。その結果、従来90°Cを超えていたメモリ温度が85°C未満まで低下するという顕著な効果が確認された。これは冷却機構そのものの設計を変更せずに温度特性を改善できる有効な手段であり、ユーザー主導のハードウェア改善の好例といえる。
Sapphireはこの結果を受けて、次回の製造バッチにおけるメモリ温度の管理目標値を再検討していることが判明している。この動きは、Igorが示した実験結果が製品改善へと実際に反映される極めて珍しいケースであり、ユーザーのフィードバックと専門的検証がメーカーの意思決定に影響を及ぼしたことを意味する。従来は工場出荷時の仕様に依存していた温度設定が、より現場の知見に近づく流れと捉えられる。
カード単体の静音性やパフォーマンスだけでなく、長期的な安定稼働や熱劣化リスクの軽減に対する取り組みが、今後の製造方針にどこまで反映されるかが注目される。
Source:PC Guide