トランプ大統領が発表した「相互関税」により、中国やインドを含む主要製造国からの輸入に最大54%の関税が課され、Apple製品の価格が急騰する可能性が浮上している。RosenblattやUBSの試算では、iPhoneやApple Watchの価格が43%前後も上昇する可能性が示され、iPhone 16 Proは1,429ドルに達するとの予測もある。

Appleは生産地の分散や価格交渉で対応を図るが、製造の米国回帰は高度人材や設備の不足から実現困難であり、消費者へのコスト転嫁は避けられない情勢だ。

関税率最大54%の衝撃がApple製品に及ぼす価格上昇圧力

トランプ政権が打ち出した新たな関税政策により、中国製品に対しては既存の20%に加え34%、インドからの製品には26%の追加関税が上乗せされる。これによりAppleが支払う関税は、たとえばiPhoneの場合で1台あたり270ドルという巨額に達する。こうしたコスト増は企業単体では吸収しきれず、販売価格への転嫁が現実的な対応策となる。

Rosenblatt Securitiesは、iPhone 16が799ドルから1,142ドルに、Apple Watch Series 10は399ドルから570ドルに上昇すると分析。加えてUBSは、iPhone 16 Pro Maxが最大1,549ドルに達するとの試算を公表した。インドやベトナムなど複数国に製造を分散させてはいるが、ベトナムからの製品にも46%の関税が課されるなど、リスク回避の余地は限定的である。

Apple製品は高い利益率を誇るため、短期的には一部のコスト吸収が可能と見られている。しかし価格転嫁を回避し続けることは困難であり、特に新製品のiPhone 17 AirやM5 Macでは20%以上の値上げが予測される。価格競争力の低下は、Appleにとって中長期的な市場シェアの懸念を孕む展開となる。

米国製造への回帰は不可能に近い現実とその根本要因

トランプ大統領が意図する「製造業の米国回帰」は、Appleにとっては理論上の選択肢に過ぎない。Foxconnの中国工場では時給3ドル未満で労働力を確保しているのに対し、米国内での人件費ははるかに高く、同水準の生産を実現するには労働コストだけで100ドル以上の増加が避けられない。

しかも、製造に必要な高度技能者が米国では圧倒的に不足している現状がある。Tim Cookは過去に、工具エキスパートの数で中国は「サッカー場数面分」、米国は「一部屋分」にも満たないと語っており、8年を経た今もこの構図は大きくは変わっていない。

大量生産に耐える工場設備と熟練人材がなければ、米国への移管は単なる理念にとどまる。現実には、完全な製造移管を実現するには最低3~5年、あるいはそれ以上の年月が必要となる。さらに、Apple製品の中核を成す部品群―たとえばKioxiaのフラッシュメモリ、SamsungやLGのディスプレイ、TSMCのプロセッサといった国際的な供給網にも関税が発生し、単なる最終組立地の問題に留まらない。

グローバルな製造構造を前提とするAppleにとって、関税政策は極めて重くのしかかる足かせとなっている。

Source:Macworld