2025年、ナンシー・ペロシ元下院議長の株式投資は市場全体の調整と歩調を合わせる形で厳しい結果となった。第1四半期に新たに追加した5銘柄のうち、損失を回避し利益を生んだのは、ヘルステクノロジー企業Tempus AI(ナスダック:TEM)のみである。
同社の株価は1月14日の購入以降34%上昇し、同期間に13%下落したS&P500を大きくアウトパフォームした。背景には、精密医療領域におけるAI活用への期待と、業績改善・戦略的買収による企業価値の強化がある。
アナリスト9名が今後12か月で株価は平均64ドルまで上昇すると予測しており、ペロシ氏のポートフォリオの中で異彩を放つ存在となっている。
Tempus AIが唯一の黒字銘柄となった背景

ナンシー・ペロシ元下院議長の2025年第1四半期の株式取引において、唯一の利益銘柄となったのがTempus AI(ナスダック:TEM)である。購入は2025年1月14日、報告は1月17日で、投資額は50,001ドルから10万ドルの範囲に設定されていた。同銘柄の株価はその後、購入時点から34%上昇し、同期間に13%下落したS&P500との対比においても異例のパフォーマンスを示している。他の4銘柄—Amazon、Alphabet、Nvidia、Vistra—はいずれも6.12%から26.38%の範囲で値を下げ、全体としてペロシのポートフォリオは大きく後退した。
この顕著な対照の背景には、Tempus AIが医療領域でAIを用いた精密医療に取り組んでいるという特異性がある。2024年第4四半期の決算では、売上が前年同期比35.8%増の2億700万ドル、粗利益はほぼ50%増を記録し、純損失も約75%縮小するなど、財務体質の急速な改善が確認された。さらに、2025年2月にはAmbry Geneticsの買収を完了し、遺伝子検査分野における地位を強化したことも投資家心理を大きく押し上げたと考えられる。
株価を実際に押し上げた要因として、AIと医療という2つの成長分野の交差点に位置している点が挙げられる。さらに、企業の収益構造改善が数字として明確に示されたことで、短期的な投資妙味が際立つ結果となった。
精密医療とAIの接点に投資家が示す関心
Tempus AIは、医療分野におけるAI活用の具体的な成果を示す稀有な存在として注目を集めている。膨大な臨床データと分子データを解析することで、がんや希少疾患に対する個別化医療の実現を目指す同社の技術は、既存の医療インフラでは対応しきれない需要に応える可能性を持つ。市場が不安定な局面においても株価が堅調であるのは、この「技術の非代替性」と「社会的要請の高さ」に支えられていると考えられる。
特に2025年初頭の相場では、生成AIや半導体など過熱感のあるセクターに資金が集中し、その揺り戻しによって成長株全体が打撃を受ける中、Tempus AIは例外的に支持を維持した。その背景には、同社が単なるAI関連企業ではなく、「収益成長の裏付けがあるAI企業」である点が大きい。粗利益率の上昇、損失の縮小、買収によるシナジー効果といったファンダメンタルズが明確に開示されているため、機関投資家の保有継続意欲も高まった可能性がある。
ウォール街アナリスト9名の平均見通しが「今後12か月で株価64ドル、約50%上昇」となる中、投資家が注視すべきは今後の医療規制対応やデータ活用範囲の拡張に対する企業の柔軟性である。構造的な成長性は高いが、その持続性は外部環境に強く依存している。
Source:Finbold