ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、2024年第4四半期時点で過去最大となる3,340億ドルの現金を保有し、9四半期連続で株式を売り越していた。これは強気相場の只中にあっても「割高」な市場を警戒してきた結果であり、異例の防御姿勢を意味する。

だが、トランプ前大統領の演説後に市場が急落し、S&P500が年初来で13%の下落となる中、バークシャーはプール・コーポレーション株などを新たに取得。割安感に欠ける銘柄を選んだ背景には、相場のさらなる混乱に備えた戦略的意味合いがうかがえる。

これがバフェット流「恐怖に乗じた買い」の始まりなのか、それとも依然として様子見の段階にとどまるのかは、次の四半期報告を待たなければ明らかにならない。

3,340億ドルの現金保有と9四半期連続の株売却が意味する異例の防御姿勢

バークシャー・ハサウェイが2024年末時点で保有する現金は3,340億ドルに達し、同社史上最高額を記録した。これは2022年以降9四半期連続で株式の純売却を続けてきた結果であり、過去に例を見ない水準のキャッシュポジションである。市場全体が高値圏にある中でのこの動きは、バフェットが割高な株式市場に対して一貫して慎重な姿勢を崩さなかったことを明確に示している。

同時に、このような動きが市場全体への警鐘とも受け取られてきた。彼は1986年の株主書簡で「他人が貪欲な時に恐れ、他人が恐れている時に貪欲になる」と記しており、その姿勢は現在も変わらない。つまり、この長期的な売却と現金蓄積は、明確な買い場が到来するまで一切の妥協を許さないという投資哲学の表れでもある。

こうしたスタンスが広く共有されることで、市場参加者の一部には「バフェットが動かない間は慎重であるべきだ」とする空気も生まれている。したがって、今回の巨額現金の背景には、単なる資金管理ではなく、今後に備えた明確な意図があると見るのが妥当であろう。

プール・コーポレーションへの投資が示す戦略的転換の兆し

2025年初頭、バークシャー・ハサウェイが新たに購入した銘柄のひとつがプール・コーポレーションである。同社はスイミングプール関連製品の流通大手であり、生活必需品とも言い難い業種ながら、今回の市場下落局面においてS&P500が13%下落する中、同社株の下落幅は7%にとどまっている。これは安定感と防御性を備えた企業としての評価に他ならないが、同時に「割安株」としての従来のバフェット銘柄とは異なる印象を与える。

この投資が明確に示しているのは、現金保有を維持しつつも、防御性と収益性を両立させる銘柄を選好するという新たな対応策である。バフェットが自らの手法を完全に転換したわけではないが、「今買える価値」を厳選し、将来的な混乱時にも耐えうる構成を整えている可能性は否定できない。

かつてのような劇的な「割安買い」が困難な市場環境において、バークシャーの一部資金がこうした中庸的な銘柄に向けられたことは、慎重でありながらも着実な対応の一例といえる。このような動きは、いかなる環境下でも損失を限定し、機会を見出すための布石として読み取ることができる。

クローガー投資とAmazon保有が象徴する長期的視野と選別眼

バークシャー・ハサウェイが2019年に購入したクローガー株は、買付時に業績不振で割安とされていたが、その後の業務改革により復調し、現在では株価が約170%上昇している。この事例は、バフェットが「本質的価値と将来的な改善余地」を見極めていたことを端的に示す。単なる短期的な収益ではなく、構造変革と経営の健全性を重視した典型である。

一方、現在保有しているAmazonもまた、目先のボラティリティを超えた長期的な成長性が見込まれる企業である。Amazonは直近の市場低迷の中で下落基調にあるが、それでもバフェットは売却に転じていない。この判断は、彼が一度買った企業に対して極めて長期の目線を持っていること、そして「成長が確信できる限り、短期の騒音には動じない」という姿勢を如実に表している。

このように、バフェットの銘柄選定には一貫して「耐久性」と「進化可能性」が組み込まれており、タイミングではなく企業の本質を見る姿勢が根底にある。市場環境がどれほど揺らいでも、選び抜かれた企業であれば持ち続けるという信念が、バークシャーの資産構成に色濃く反映されている。

Source:The Motley Fool