TSMCが米国輸出規制に違反し、エンティティリスト掲載中のHuawei向けにAIプロセッサ用チップレットを提供していた疑いが浮上している。報道によれば、同社には10億ドルを超える罰金が科される可能性があり、これは過去最大級の制裁となるおそれがある。

問題の発端は、暗号通貨マイニング企業Sophgo向けに製造されたとされるチップが、実際にはHuaweiのAscend 910シリーズに使われていたとするTechInsightsの解析結果である。TSMCは出荷を停止し調査に協力中だが、最終用途の把握が困難な業界構造が事態を複雑化させている。

Huaweiの影に潜むSophgo 巧妙化する供給網の実態

Sophgoは、かつて暗号通貨マイニング向けチップのメーカーBitmainとの関係で知られていたが、2024年秋以降、その存在がHuaweiのAIプロセッサ供給における中継地点として疑われている。TechInsightsによる解析で、Sophgo経由のチップレットがHuaweiのHiSilicon Ascend 910シリーズに組み込まれていたことが判明し、TSMCは即座に出荷を停止。さらに米商務省は、SophgoがHuaweiの代理として機能していた可能性を重く見ており、2025年初頭にエンティティリストへ追加された。

この構図は、Huaweiが「独立系設計会社」や別法人を介して規制の網をかいくぐる手法を継続していることを示している。TSMCは製造受託時に設計の最終用途を把握できないため、名目上は第三者向けでも実質的にHuawei向けという事例が生じ得る。数百億トランジスタを搭載し、高度な設計を要するAscend 910用チップを無名の企業が委託するという状況自体、異常と受け止める向きもある。

現時点では、TSMCがどの程度の規模でHuaweiにチップレットを供給していたかは不明だが、もし数百万個単位の出荷があったとすれば、その影響は計り知れない。これは米国の制裁網の限界を浮き彫りにする一方、ハイエンドAIチップを巡る国際的な攻防が技術の細部にまで及んでいることを示している。

TSMCに課される罰金のインパクト Seagate事例との比較から見る異例性

TSMCが直面している10億ドル超の罰金リスクは、同様の過去事例と比較しても異例である。2023年、SeagateがHuaweiに11億ドル分のハードディスクを供給した件では、科された罰金は3億ドルだった。対して、今回のTSMCのケースでは、商務省は不正取引の2倍に及ぶ額までの罰金を科す可能性があるとされており、これは記録的な制裁水準となるおそれがある。

今回の制裁額の大きさには、供給されたチップの技術的高度さが関係していると考えられる。Ascend 910シリーズはAI演算に特化したハイエンドプロセッサであり、国家安全保障や軍事転用の懸念が特に強い分野に属する。さらに、TSMCの製造には米国技術が含まれており、輸出ライセンスの取得が不可欠だったにもかかわらず、それが回避された可能性があることが問題視されている。

ただし、TSMCが意図的に違反した証拠は現時点で公表されておらず、Sophgoを通じて結果的にHuaweiに渡ったという構図が浮かんでいる。そのため、罰金額の最終決定には、設計提供者の特定やTSMCの内部管理体制がどこまで問われるかが影響するとみられる。Seagateとの比較からも分かるように、違反額だけでなく、その性質と波及効果が判断基準となる可能性がある。

米規制の包囲網と半導体製造の盲点 透明性欠如が引き起こす連鎖

今回の一件が浮き彫りにしたのは、世界トップクラスのファウンドリ企業であっても、チップの最終用途を正確に把握するのは困難だという事実である。TSMCは基本的に設計データを元に製造を行う立場にあり、依頼元企業が提出する情報の真偽を確認する手段を持たない。特に、Sophgoのように一見独立した第三者が介在する場合、意図しない規制違反が発生しうる構造となっている。

その背景には、Huaweiのような企業が、制裁を回避するために複数の企業体を用いてサプライチェーンを複雑化させている実態がある。米政府の規制は、製品に含まれる米国由来技術の有無によって適用されるが、そのトレーサビリティには限界がある。これにより、TSMCのようなグローバル企業でさえ、知らぬ間に輸出規制を破るリスクを抱えることになる。

チップレットのような分割型設計が普及する現在、1つの製品に複数の設計者・製造者が関与することが珍しくない。その結果、どこで誰が設計し、誰が製造し、どのように統合されるのかが不透明になり、制裁逃れの温床にもなりかねない。高性能チップの進化が進むほど、製造プロセスの透明性と国際的な管理体制の整備が求められる状況が一層強まっている。

Source:Tom’s Hardware