新たな包括関税の発効を目前に控え、トランプ米大統領は各国に対し「テーラーメイドの取引」を持ちかける姿勢を明確にした。ホワイトハウスによれば、既に70カ国以上が接触を図っており、日本や韓国、イタリア首相の訪米も予定されている。

注目されるのは、交渉対象が単なる関税緩和にとどまらず、人工知能・エネルギー・薬物対策・拘束米国人の解放など多岐にわたる点だ。これに対し、経済界の大手企業CEOらも水面下で懸念を伝えており、政策の先行きに不透明感が広がっている。

政権内のメッセージも一枚岩ではなく、関税戦略に対する混乱が市場に影響を与えているとの指摘もある。トランプ氏は「交渉の余地はある」と語るが、その線引きは極めて曖昧なままである。

外交交渉の舞台裏で動く「取引の通貨」は関税にあらず

4月8日、ホワイトハウスで署名された大統領令の発表を前に、各国首脳や政府関係者が次々とワシントン入りしている。日本・韓国の代表団が既に渡米の途にあり、イタリア首相も来週訪問予定である。これらの国々は一様に新たな包括関税措置の回避を目指しているが、ホワイトハウスはその条件を明示していない。むしろ、通商以外の分野での譲歩や協力が交渉のテーブルに乗っていることが明らかとなった。

米国政府関係者によれば、交渉対象には人工知能企業との連携強化、米国産エネルギーの追加購入、薬物密輸対策への協力、さらには不当に拘束された米国人の解放支援まで含まれる見込みだという。ホワイトハウスはこの交渉スタイルを「ワンストップ・ショッピング」と表現しており、トランプ氏は強硬な関税政策を梃子として、多面的な外交成果を得ようとしている。

このような交渉手法は、従来の通商協定の枠組みから逸脱しており、国家間のバランスを崩すリスクも含む。特定の譲歩が一国にのみ許されることで、国際的な公平性や透明性が損なわれる可能性もある。トランプ政権が模索する「関税の次のステージ」は、もはや経済政策にとどまらず、包括的な外交戦略として世界各国に影響を及ぼし始めている。

経済界の反応と市場の混乱が政権内の対立を浮き彫りに

4月中旬に予定される新関税の発効を前に、米国経済界の反応は一様に警戒感を示している。銀行、ハイテク、重工業など多業種のCEOがホワイトハウス幹部と非公式に接触し、「関税は世界経済に悪影響を及ぼす」と警鐘を鳴らしている。とりわけ、スージー・ワイルズ首席補佐官への連絡は「津波のようだ」と表現されるほどに過熱しており、政権内部でも意見の対立が顕在化している。

トランプ氏は当初、商務長官ハワード・ルトニックのテレビ発言に強い不満を示していた。ルトニックが「関税の見直しは絶対にない」と明言した直後、米国市場は急落し、S&P500は2月の最高値から20%近く下落する急変動を記録した。これを受けて政権は対外発信の修正に乗り出し、財務長官スコット・ベセントが「交渉のための関税である」と火消しに動いた経緯がある。

こうした混乱は、政権内における対立構造を浮かび上がらせている。テッド・クルーズ上院議員はSNS上で「大統領の肩には天使と悪魔がいる」と皮肉交じりに発言しており、内部の戦略不一致が政権の方針を不安定化させていることを示唆している。市場はすでにこうした不一致を織り込み始めており、今後の政策の明確化がなければ、さらなる動揺は避けられない情勢にある。

Source:CNN