イーサリアムネットワークの総トランザクション手数料が、2020年以来の低水準に落ち込んだ。バイナンス傘下のCrypto Minersによれば、2025年第1四半期の手数料は前年比で約60%減少し、4月初旬には2億800万ドルにとどまった。この背景には、オンチェーン活動の停滞と、Layer-2ソリューション「Base」の急速な普及がある。
手数料低下は、エコシステム全体の活性度が鈍化している兆候とされ、NFTやDeFi取引の勢いにも陰りが見られる。加えて、ETH価格は第1四半期に45%下落し、過去最低水準へと転落。ETH/BTCペアも5年ぶりの安値を記録し、ネットワークの基盤であるブロックスペースの需要に深刻な影響を及ぼしている。
4年ぶりの手数料急落が示すネットワーク活動の減退

Crypto Minersの分析によれば、イーサリアムのトランザクション手数料は2025年第1四半期において約60%減少し、4月4日時点で2億800万ドルまで落ち込んだ。これは2020年以来の最低水準であり、オンチェーン上の取引需要が著しく低下していることを如実に示している。特にDeFiやNFTといった分野におけるアクティビティの鈍化が、この数値に影響していると見られる。
ネットワークの混雑が緩和されていることは一見ポジティブにも見えるが、裏を返せばそれはイーサリアム上でのユースケースの広がりが停滞していることを意味する。これまで高騰していたガス代が、逆にユーザー離れを加速させてきたという背景もあり、ユーザー数や開発者の注目が他のチェーンへ移行しつつある可能性が否定できない。
また、ユーザーが支払うガス代の減少は、ネットワークのセキュリティや維持費に関わるバリデーターへの報酬減にもつながる。この状況が長期化すれば、イーサリアム基盤の維持力そのものにも影響を及ぼしかねない。手数料の下落は単なるコスト問題ではなく、エコシステムの健全性に関わる根本的な課題を浮き彫りにしている。
Layer2の拡大とDencunアップデートがもたらした構造変化
2025年初頭の急激な手数料減少には、Layer2ネットワークの急拡大が密接に関係している。特に注目されているのは、Baseによる1秒あたり80件以上のトランザクション処理という高いスループット性能である。これに加え、イーサリアム本体のスケーラビリティ向上を目的としたDencunアップデートが導入されたことで、Layer2上のコスト構造が大幅に改善された。
結果として、ユーザーや開発者はメインチェーンの高コスト構造を避け、より安価で高速なLayer2へと流れている。これはある意味で、イーサリアムネットワークの成功と成長の証ともいえるが、一方でメインネットへの直接的な関与が薄れることで、従来のネットワーク設計の意義や経済的基盤に揺らぎが生じていることも事実である。
構造的に見るなら、これまでイーサリアムの魅力とされてきた「分散性」と「透明性」が、コスト面を重視するユーザー心理の前に後退しているともいえる。手数料低下はLayer2の普及による自然な流れではあるが、メインチェーンのプレゼンスが低下することは、イーサリアムそのものの信認構造にも中長期的に影響を及ぼす可能性がある。
クジラによる買い支えと価格回復の限界
2025年第1四半期、イーサリアムの価格は約45%下落し、2022年以来最悪の四半期パフォーマンスを記録した。特にETH/BTCの通貨ペアが5年ぶりの安値に達した点は、マーケットのETHに対する相対的な評価が急落したことを示している。しかしその一方で、1,800ドル以下での大口投資家、いわゆる「クジラ」による継続的な買いが報告されており、一定の価格帯での下支えが意識されている。
オンチェーンアナリストのMAC_Dによれば、ETH保有者の実現価格は2,200ドルであり、多くの投資家が含み損を抱えている状況にある。一方で、10万ETH以上を保有するクジラの平均取得価格は1,290ドルとされており、この価格が今後の重要な支持線となる見込みである。2022年6月のLunaショック時に反発の起点となった870ドルも、下値の目安として再び意識され始めている。
ただし、市場が回復基調に転じるためには、単なる価格支持だけでは不十分である。イーサリアムを取り巻くファンダメンタルズ、特にユースケースの再活性化やLayer2との相互補完関係の再定義が求められる。クジラの存在は安定要因であるが、それ自体がネットワーク全体の活性化につながるとは限らない点に留意が必要である。
Source:Bitcoinist