ドナルド・トランプ前大統領が打ち出した相互関税政策により、暗号資産業界に再び波紋が広がっている。タイやマレーシアなどから米国へ輸出されるビットコイン採掘装置に最大36%の関税が課され、1,000ドルの機器が米国では1,240ドルに跳ね上がる見通しとなった。

これにより米国内の需要は急減し、供給過多となった在庫は関税のかからない地域で安値で放出される可能性が高い。Hashlabs MiningのCEOは、フィンランドなどの国々では価格が据え置かれるため、海外事業者にとっては機器調達の好機になると指摘する。

信頼回復は容易ではなく、米国内の長期的な設備投資計画にも影を落とす。ビットコインネットワーク全体における米国の影響力が今後低下する懸念も浮上している。

トランプ政権の相互関税が暗号資産業界に与える具体的影響

ドナルド・トランプ氏が4月2日に発表した新たな相互関税政策により、米国への暗号資産関連製品の輸入コストが一斉に跳ね上がった。中でも暗号採掘装置は最大36%の関税対象となり、Bitmain、MicroBT、Canaanといった大手メーカーの製品価格が直撃を受ける。これらのメーカーは2018年の米中貿易摩擦を機に生産拠点を中国からタイ、インドネシア、マレーシアなどに移していた経緯がある。今回の関税強化は、その代替地さえも規制対象とするものであり、採掘装置の米国価格は例として1,000ドルの製品が1,240ドルに上昇する計算となる。

Hashlabs MiningのCEOであるジャラン・メレルド氏は、関税により米国市場向けの出荷が急減し、メーカーが過剰在庫を抱える状況に陥ると予測する。この余剰在庫は、関税の影響を受けない欧州や中南米の市場で投げ売りされることになり、米国外の採掘業者にとっては安価での機器導入という恩恵が生まれる。特にフィンランドなど無関税国では価格が据え置かれるため、調達競争力の格差が生じる。

こうした価格差は、ビットコインのハッシュレート分布にも波及する可能性がある。コスト効率の向上が求められる採掘業界において、安価な機器を得た事業者の拡張速度は加速する一方で、米国事業者の投資意欲には冷水が浴びせられる構図が明確になりつつある。

採掘業界における信頼の毀損と中長期的リスク

関税の影響は単なる価格変動にとどまらない。メレルド氏が指摘するように、最大の問題は「制度の予見可能性の喪失」である。米国の採掘事業者は、これまでトランプ政権の再登場によって規制の安定を期待していた。しかし、突如として打ち出された今回の政策変更は、その期待を根本から覆した。規制環境が一夜にして変わるという現実は、長期的な設備投資やインフラ整備に対する意欲を大きく削ぐ要因となる。

たとえ今後数か月で関税が撤回されるような事態が起きたとしても、既に発生したコストや在庫問題、そして将来の政策リスクに対する不信感は容易に払拭されない。これは、企業が中長期戦略を描く上での根本的な障壁となり得る。特に、1台1,000ドル以上もする機器を数百台単位で導入する必要があるマイニング事業において、予期せぬコスト変動は致命的な損失に直結する。

米国は現在、ビットコインネットワーク全体の約40%のハッシュレートを保有しているが、今後この割合を維持することは困難となる可能性がある。採掘装置の価格競争力が米国外に移る中で、拡張のスピードや事業の柔軟性において、他国が優位に立つ構図が浮かび上がる。米国市場の信頼回復には、制度の透明性と一貫性が不可欠であり、単なる関税撤廃では不十分であることを今回の事例は示している。

Source:Cointelegraph