米AMDは、2025年6月12日に開催予定の「Advancing AI」イベントで、次世代Instinct GPUを含むAI領域に関する複数の重要発表を行う。注目されるのは、TSMCの3nmプロセスを採用し288GBのHBM3Eメモリを搭載する「Instinct MI355X」および、次世代「MI400」シリーズの可能性である。

本イベントは、NVIDIAの独走が続くAIアクセラレータ市場において、AMDが本格的に攻勢に出る意志を示す場と目されており、特にエンタープライズやデータセンター分野における競争力が問われる機会となる。

また、GPUと並んで同社のAIソフトウェア基盤「ROCm」のアップデートも予定されており、AI開発者やハイパースケーラーに向けたエコシステム強化の動向も注目される。

次世代Instinct MI355Xが提示するハードウェア進化の方向性

2025年6月12日の「Advancing AI」で披露されると見られるInstinct MI355Xは、TSMCの3nmプロセスを採用し、288GBのHBM3Eメモリを搭載する見込みである。この仕様は、従来のAMD製AIアクセラレータと比較しても飛躍的な技術進化を示唆しており、消費電力効率と帯域幅の両面で性能向上が期待されている。また、高密度なメモリアーキテクチャにより、大規模AIモデルのトレーニングや推論処理における演算負荷を大幅に緩和する設計が施されている可能性がある。

NVIDIAのHopperアーキテクチャにおけるHBM3採用に対抗する構造と見られ、AMDは本製品により市場シェア拡大の突破口を探るものと推測される。しかし重要なのは、単なる性能競争ではなく、どれだけ実運用レベルでの統合性とスケーラビリティを提示できるかにある。技術の細部に宿る設計思想の違いが、データセンターやハイパースケーラーの選定基準を大きく左右することになる。

ROCmソフトウェアエコシステムの展開と戦略的意義

AMDは、GPUと並行して自社のAIソフトウェアスタック「ROCm(Radeon Open Compute)」の強化にも取り組む姿勢を明確にしている。このスタックは、CUDAを中心に形成されてきたNVIDIA主導のAI開発環境に対抗し、よりオープンかつ柔軟な選択肢を提供することを目指して開発されてきた。今回のイベントでは、ROCmのアップデートに加え、ハイパースケーラーやスタートアップ向けの具体的な開発支援策も披露される可能性がある。

ROCmの成否は、ハードウェアの性能以上に、ソフトウェア開発者がどれだけ迅速かつ効率的にAIモデルを実装できるかにかかっている。これまでCUDAに依存してきた業界構造を転換させるには、開発環境の安定性とツールチェーンの成熟度が問われる。AMDがROCmに注力することは、単なる製品展開にとどまらず、長期的なエコシステム支配権を巡る戦略的布石として位置づけられる。

AI覇権争いにおけるAMDの立ち位置と今後の鍵

AIアクセラレータ市場において、NVIDIAが依然として圧倒的な存在感を放つなか、AMDは「Team Red」として異なる戦略で市場に挑もうとしている。「Advancing AI」での発表は、その構想の一端を外部に示す貴重な機会であり、とりわけエンタープライズやデータセンター向けのプレゼンス強化が焦点となる。MI355XやMI400ラインアップが持つ可能性は、AMDがこのセグメントでの競争力を確立するための鍵とされている。

ただし、技術力の進化だけでは市場は動かない。顧客企業が求めるのは、性能、コスト、導入の容易さ、そして長期的なサポート体制である。NVIDIAはこれらを包括的に提供することで地位を築いたが、AMDは特定分野への最適化や価格競争力によって食い込む余地を模索している。6月のイベントは、AMDがこの複雑な構図にどう切り込むか、その意思表示の場となる。

Source:Wccftech