トランプ政権は、中国向けに設計されたNVIDIAの先進AIチップ「H20 GPU」について、当初検討されていた販売禁止措置を見送る方針と報じられた。関係者によれば、同社のジェンスン・フアンCEOとトランプ大統領の直接会談が決定の転機となり、NVIDIAが米国内のAIデータセンターへ新規投資を約束したことが背景にあるとされる。
H20 GPUは、中国市場で最も高度なNVIDIA製品とされ、DeepSeekのAIモデルにも使用された実績を持つ。市場では同製品の供給不足が指摘され、流通の可否が国際的な注目を集めていた。トランプ政権の政策転換は、NVIDIAの株価変動や米中のAI技術競争にも影響を及ぼす可能性がある。
米中テック覇権の狭間で浮上したH20 GPUの重要性

NVIDIAが中国市場向けに投入したH20 GPUは、現地で入手可能なAI用途の半導体の中でも最も先端的と位置づけられている。特に中国のAIスタートアップであるDeepSeekが、少ないリソースで西側と同等の性能を示すAIモデルを開発した事例において、H20の存在は象徴的な意味を持った。2025年1月にはこの動きが引き金となり、NVIDIAは6000億ドル規模の時価総額を失う急落を経験している。
このような背景から、トランプ政権がH20への制裁を検討するのは必然ともいえる展開だったが、最終的に販売禁止を回避した判断は、単なる商業的配慮にとどまらない。関係者の証言によれば、NVIDIAのフアンCEOがトランプ大統領との会談を通じて、米国内のAIデータセンター事業への新規投資を表明したことが決定打となった。この投資は、国内雇用創出と先端技術の地産地消という政治的文脈に合致する。
中国市場のAIインフラがH20への依存を深める一方、米国は自国への回帰的な設備投資でテクノロジー覇権の再構築を目指す。両国の産業戦略が交差する中で、H20は単なるGPUを超えた地政学的ツールとなりつつある。
トランプ政権の投資誘導戦略とNVIDIAの巧みな交渉術
今回の制裁回避の裏には、NVIDIAによる戦略的な交渉と、トランプ政権の政策思想が交差している。トランプ大統領は政権発足以降、外国企業による米国内投資を一貫して歓迎し、製造拠点や先端施設の国内回帰を重視してきた。NVIDIAが提示したAIデータセンターへの新投資は、まさにこの文脈に呼応したものであり、制裁回避という“取引”の対価として成立した可能性がある。
一方、GPU供給を担う台湾のTSMCも、1000億ドル規模の米国投資パッケージを発表しており、半導体サプライチェーンの再構築に対する圧力が業界全体に及んでいる。NVIDIAはH20の中国市場投入により収益を守りつつ、政権に対しては国内雇用と技術蓄積の拡大を約束することで、政治的リスクを極小化する姿勢を示した。
このように、今回の対応は企業による一種の“二正面作戦”といえる。米国の政治圧力をかわしながら、中国市場という成長軸を維持する高度なバランス戦略が、NVIDIAの経営陣には求められている。制裁を免れたことで一時的に株価は持ち直したが、技術覇権をめぐる攻防は今後さらに複雑化する見通しである。
Source:Wccftech