Metaが長年否定してきたiPad向けのInstagramネイティブアプリの開発に着手したと、The Informationが報じた。これまで「ユーザー数が少ない」として後回しにされてきたが、TikTokの米国内での禁止やByteDanceへの売却要求といった法的リスクが、戦略転換の引き金となった可能性がある。
Web版やiPhone互換モードでは不十分とされてきたiPadでの体験を見直す動きは、ビジュアル表現を重視するクリエイターやタブレットユーザー層の獲得を狙うMetaの広範な意図を反映するものとみられる。これまでSnapchatやTikTokに対抗する形で機能強化を行ってきたMetaが、再び競争環境の変化を捉えてInstagramの利用環境を拡充しようとしている。
Instagram責任者の発言とMetaの戦略転換が示す10年越しの方針変化

Instagramの責任者Adam Mosseri氏は、過去数年にわたりiPad向けアプリの開発について消極的な立場を繰り返していた。2022年および2023年のコメントでは「iPadユーザーは十分な数ではない」「優先順位が低い」という姿勢が一貫して示されていたが、今回の開発開始報道はその認識に変化が生じた可能性を示している。
MetaがiPadユーザーのニーズを「無視できない市場」として捉え直したことは、競争環境の変化を受けた再評価と見るべきだろう。この背景にあるのが、TikTokの米国内における法的な不安定性である。米国議会では、TikTokの親会社である中国のByteDanceに対し売却か全米禁止の選択を迫る法案が浮上しており、仮に成立すれば短尺動画市場に巨大な空白が生まれる。
Metaにとってこれは、Instagramを軸とした自社のエコシステムを再強化する絶好の機会となる。iPadという未開拓だったデバイスでのユーザー体験を改善することで、コンテンツ消費や制作の主戦場である動画領域において主導権を取り戻そうとする意図が透けて見える。
iPadのポテンシャルとWeb版の限界が突きつけた専用アプリの必要性
Instagramは、画像や動画といった視覚的表現を核とするプラットフォームであるが、その本質に対して、これまでiPadでは専用アプリが存在せず、ユーザーはiPhoneアプリの拡大表示やブラウザ版に頼らざるを得なかった。
Stage Managerなどの新機能により、iPadのマルチタスク性は向上しているものの、UIの最適化、画面解像度の活用、処理速度といった観点ではネイティブアプリに軍配が上がる。特にプロフェッショナルな制作者やインフルエンサーにとっては、リールの編集やDMの操作性において決定的な違いが生まれる。
Metaがこのタイミングで専用アプリの開発に動いたのは、単なる利便性向上ではなく、クリエイター層をTikTokから引き戻す構えを見せたことと読み取れる。高解像度かつ広いディスプレイを活かし、コンテンツ制作から発信までの一連の体験を洗練させることで、Instagramの優位性を印象づける狙いもあるだろう。
これにより、Appleユーザーを中心とした動画発信者の囲い込みが進めば、MetaのSNS領域でのプレゼンスはさらに強化される見込みがある。
Source:TechStory