Apple株が15%以上上昇した。背景にはトランプ大統領による、75カ国以上を対象とした90日間の関税一時停止措置がある。中国を除く国々には10%の基本関税が適用される見通しで、Appleが進めるインドへの生産移管も戦略的意義を増している。

さらに、トランプ大統領が一部企業への関税免除を検討していると明かしたことが、Apple株の急反発に拍車をかけた。同社は5,000億ドルの国内投資を約束しており、免除対象となる可能性が意識されている。

一方、BofAのアナリストは、iPhoneの国内製造によるコスト増やサプライチェーンの混乱を指摘し、インド供給拡大や製品価格調整など複数の対応策を評価している。

Apple株急騰の背景にある政策転換と関税緩和措置の詳細

2025年4月、トランプ大統領は中国を除く全ての国に対する関税の一時停止を90日間実施すると発表した。これにより、基本関税率は10%へと引き下げられ、Appleを含む多国籍企業にとって大きな負担軽減となった。今回の措置は、75カ国以上を交渉対象とする広範な経済調整の一環であり、米中対立の中でも他国との経済連携を重視する姿勢が示されたかたちである。

Appleの株価が15%以上も急騰したのは、これに加え、企業単位での関税免除の可能性が報じられたことによる。Appleは今後4年間で5,000億ドルの米国内投資を計画しており、この大規模な貢献が免除対象の有力候補と見なされている。事前に8,000億ドル近い市場価値を失っていた同社にとって、この政策転換は文字通りの救済策となった。

インドへの生産移管も今回の緩和措置と相まって戦略的価値を増している。インドは米国との交渉において好意的な対象とされ、関税は10%にとどまる見通しである。製造拠点の多様化がもたらす経済的・地政学的メリットが、Appleに新たな安定性を与えつつある。

製造コストとサプライチェーンの課題が浮き彫りに インド移管とその限界

BofAセキュリティーズのアナリスト、ワムシ・モハン氏によると、AppleがiPhoneの生産を米国内で完全に行った場合、製造コストは現状比で90%も上昇するという。さらに、サプライチェーンにおいても物流面での深刻な混乱が予想されると指摘された。これは製品価格への波及、そして消費者への負担増に直結する可能性がある。

この見解は、Appleがインドへの生産移転を進めている背景とも合致する。インドは人件費の安さに加え、米国との関税交渉で有利な立場にあり、生産コストの抑制と関税回避を両立できる候補地とされている。ただし、現時点でのインドの生産能力には限界があり、全量を代替するには時間と設備投資が必要とされる。

モハン氏は、Appleが複数のリスク回避手段を持っているとも述べている。たとえば価格の段階的引き上げ、部品サプライヤーへの効率化要求、新機種の高価格帯化や発売スケジュールの調整などである。iPhoneのリリース周期を2年に延ばす案も、サプライチェーンの圧迫を緩和する可能性が示唆された。

投資家心理と市場の期待が生む株価の反発 Appleにとっての「猶予期間」

Apple株の急騰は、単なる関税緩和だけでは説明しきれない側面がある。重要なのは、トランプ大統領の発言が市場に与えた心理的インパクトである。企業単位での関税免除の示唆は、Appleがその最有力候補と見なされる背景に、巨額の国内投資や政策的配慮の期待が存在する。これが「免除を受ける可能性が高い」という観測につながり、短期的な安心感が投資家の買いに直結した。

一方で、今回の90日間という時限的措置は、Appleにとって根本的な解決をもたらすものではない。関税問題が再燃すれば、株価は再び下落するリスクを内包している。特に中国に対しては関税率が125%に引き上げられる予定であり、製造コストや輸出面での影響は無視できない。

今回の株価上昇は、言わば「期待先行の回復」に過ぎない。実際に関税免除が実現しなければ、市場の反動もまた大きくなる可能性がある。Appleがこの90日間でどこまで戦略を具体化できるかが、今後の株価と企業評価を左右する重要な焦点となる。

Source:Investing.com