台湾の半導体大手TSMCが、Huaweiの最新AIプロセッサ「Ascend 910B」に同社製チップが使われていた疑いで、米国から10億ドル超の罰金を科される可能性があると報じられた。チップはSophgoを経由してHuawei製品に組み込まれていたとされ、複雑な供給網が問題の焦点となっている。2020年以降Huaweiへの直接供給は停止していたが、TSMCの関与が問われる構図だ。

Huaweiのプロセッサは中国国内で最も高度とされるAIチップであり、数十万単位で生産されていたとの見方もあり、米国の輸出規制強化の一環として今回の動きが注目を集めている。

米国の規制強化と複雑化するチップ供給網

米国商務省は2024年後半から、TSMCが製造した先端チップの中国企業向け出荷に対し厳格な監視を強めていた。Huaweiが大量生産したとされる「Ascend 910B AIプロセッサ」の内部に、Sophgo製と見られるチップが組み込まれ、その基盤部分がTSMC製だったとTechInsightsが分析結果を示したことで、疑念が表面化した。SophgoはBitmainと関係を持つ中国の設計企業で、TSMCはその受託製造元とされている。このような構造により、TSMCのチップが間接的にHuawei製品へ流入した可能性が浮上している。

TSMCは公式声明で、2020年9月以降Huaweiへの製品供給は停止しており、関連するすべての規制に従っていると説明した。また、違反の疑いがあれば直ちに調査し、必要に応じて関係当局と連携を取る方針も明かしている。とはいえ、今回の件では「マトリョーシカ人形」のように多段階で組み込まれた供給構造が焦点であり、単なる直接取引の有無では判断できない複雑さがある。米当局が罰金として10億ドル超を検討している背景には、この構造を通じた規制回避の疑いがあるとみられる。

HuaweiのAIプロセッサが持つ象徴的意味

「Ascend 910B」は、Huaweiが開発した中で最も先進的なAIプロセッサの一つとされ、中国国内のAI分野で象徴的な存在となっている。推定で数十万個単位で生産されており、その性能や量産体制は、中国が半導体分野で独自の技術力を築きつつあるという認識を強める要素となっている。このプロセッサには、Sophgo製のパッケージが用いられ、その中核にTSMCが製造したとされるダイが使われていたとの指摘もある。

そのため、この一件は単なる輸出規制違反の疑いにとどまらず、グローバルなチップ製造体制が地政学的な緊張とどのように結びついているかを象徴する事例といえる。TSMCのような世界的なファウンドリ企業でも、設計元や供給先の構造によっては予期せぬリスクに直面することが明らかになった。米国としても、このような先端チップが中国国内で最終製品に転用されている構図に強い警戒感を示していると考えられる。

技術の透明性と責任の境界が問われる構図

今回の調査が示すように、半導体業界における「透明性」と「責任」の境界は曖昧になりつつある。TSMCは受託製造を主業とし、設計や最終用途までは関与しない立場を強調しているが、チップがどのように使用されるかを把握しづらい現実が存在する。SophgoがHuaweiと直接的な取引関係を否定している点も、供給網の複雑さと不透明さを浮き彫りにしている。

一方で、設計企業や販売先が意図的にサプライチェーンを分断・迂回させることにより、輸出管理を形式的に回避する余地が生まれている。これにより、たとえメーカー側に違法性の意図がなかったとしても、結果的に規制違反を助長する構図になり得る点は無視できない。先端技術の製造と倫理、そして国際的なルール遵守のバランスが、より厳しく問われる時代に突入していることを示唆している。

Source:TechCrunch