マイクロソフトは4月のパッチチューズデーにおいて、Kerberos認証システムの深刻な脆弱性「CVE-2025-29809」への修正パッチを公開した。CVSSスコア7.1のこの欠陥は、Windows Defender Credential Guardの回避と機密認証情報への不正アクセスを可能にするものとされる。
本脆弱性は、攻撃の複雑性が低く、ローカルアクセスと最小権限での悪用が可能であり、企業ネットワーク全体の侵害につながる恐れがあると専門家は指摘する。発見者はNetSPIのCeri Coburn氏で、実際の悪用例は現時点で確認されていないものの、マイクロソフトは「悪用の可能性が高い」として早期対応を促している。
Windows 10への対応は未提供であり、対象企業にはガイダンスに基づいた再展開が求められる中、VBSポリシーの見直しと迅速なパッチ適用が急務となっている。
CVE-2025-29809が突きつけたKerberosの構造的脆弱性とその影響

マイクロソフトが2025年4月に修正したCVE-2025-29809は、Windows Kerberos認証における機密データの不適切な保存に起因する。攻撃者が低権限でローカルアクセスを得るだけで、Windows Defender Credential Guardを回避し、認証情報の取得が可能になる点が特筆に値する。CVSSスコアは7.1とされ、技術的には「重要(Important)」に分類されるが、攻撃の再現性が高く実用的な脅威となり得る。
Kerberosは企業ネットワークの中核的な認証基盤であり、ここが破られることは横断的な権限昇格や内部システムへの不正侵入の起点となる。とりわけ多層的なアクセス管理が求められるエンタープライズ環境において、この脆弱性の存在は単なるシステム上の瑕疵ではなく、全体設計における根本的な再検討を促す警鐘といえる。マイクロソフトがVirtual Secure Modeの修正を含めた対応に踏み切ったのは、単に個別機能の修復ではなく、セキュリティエコシステムの再強化を意味している。
CVE-2025-29809が明らかにしたのは、Kerberosが前提とする「内部信頼」モデルの限界でもある。境界防御型の思想が薄れた現代において、局所的な脆弱性が一気にドメイン全体へと波及するリスクは看過できず、既存の認証基盤の継続的監査とゼロトラストアーキテクチャへの移行が一層求められる局面にある。
Patch Tuesdayの修正状況とガイダンスに見るMicrosoftの対応戦略
今回のCVE-2025-29809への対応は、120件以上の脆弱性修正を含む2025年4月の「パッチチューズデー」アップデートの一環として行われた。だがWindows 10(x64および32ビット)の更新は未配信のままであり、「可能な限り早期に提供する」とするマイクロソフトの姿勢には不透明な側面も残る。既存のVBSポリシーを導入している組織には、最新のポリシーに沿った再展開が求められ、現場の運用担当者にとっては短期間での適応が必須となる。
セキュリティ専門家は、認証情報の窃取がネットワーク内の水平移動や権限昇格を誘発する点に着目し、パッチ適用の優先度を高く評価している。特に、既にWindows Defender Credential Guardを有効化しているにもかかわらず、その防御が無効化され得るという事実は、既存のセキュリティ設計に対する信頼性を根本から揺るがす。結果として、今回の更新は単なる欠陥修正ではなく、セキュリティポリシーの再設計に繋がる動機となり得る。
加えて、サポートが終了したバージョンを運用し続ける組織に対しても、マイクロソフトは最新のガイダンスに従うよう強く勧告しており、その意図はパッチの対象外にある環境への「間接的プレッシャー」と解釈できる。更新未対応のままリスクを抱えるよりも、設計全体の刷新を選ぶ企業が増加する可能性も想定され、今後のセキュリティ戦略に一定の波紋を投げかけることになる。
Source:Cyber Security News