Appleは2025年3月以降、米国での新関税発効を前に、インドから約150万台分に相当する600トンのiPhoneを空輸した。工場は週末も稼働し、生産量を20%引き上げるなど、物流と製造の両面で急ピッチな対応が進められた。
関税前の駆け込みはAppleにとどまらず、DellやLenovo、Microsoftといった主要企業も高価格帯製品の前倒し出荷を実施している。だが、空輸能力の制約により、全量出荷には至らなかった。HPはメキシコでの生産拡大に方針転換し、SamsungやAcerなども北米依存からの転換を模索する。米中摩擦の再燃が、業界全体の供給網に再編圧力を強めている。
関税直前の600トン空輸 Appleが選んだインド戦略の実際

Appleは、2025年3月から適用される新たな米国関税を回避するため、インドから米国へ600トンに及ぶiPhoneを空輸した。これは台数にして約150万台に相当し、通常の物流手段では対応できない規模である。Appleはインド南部の工場群において日曜も稼働を継続し、従来比20%の生産増を実現した。
この動きにあわせ、インド当局に対し通関手続きの迅速化も要請し、限られた時間と空輸能力の中で最大限の成果を追求したことが明らかとなっている。この対応は、Appleにとって単なる一時的な危機回避ではなく、中長期のインド生産拡大の地ならしとも捉えられる。
Foxconnなどのサプライヤーはすでにインドにおける製造体制を強化しており、中国依存からの段階的脱却という文脈とも連動している。インド側の税関やインフラの不確実性は依然として課題だが、それを補って余りある地政学的リスク分散の効果をAppleは評価している可能性が高い。
業界に広がる対応の連鎖 生産地と物流網の再構築へ
Appleの迅速な空輸対応は、Dell、Microsoft、Lenovoといった他の主要テクノロジー企業にも影響を及ぼした。彼らもまた関税前の高価格帯製品の出荷を加速させたが、空輸便の供給制限によって出荷量には限界があった。HPは当初の出荷戦略を見直し、北米市場向けにはメキシコでの生産増強を打ち出している。
また、Samsungは2025年中頃に向けてスマートフォン部品の注文を削減しており、LenovoやAcerは非米国市場への転換を急いでいる。これらの動きは、米中関係の緊張再燃に備えた防衛的措置といえる。関税という外部要因が、製造拠点や物流ルートの選定に強い影響力を及ぼしている。
各社ともに「一国依存」からの脱却を急務と捉え、サプライチェーンの地理的再配置に取り組んでいるのが現状である。一方で、インドやメキシコといった代替拠点にはインフラ・制度面での限界も存在し、拙速な移行にはリスクも伴う。対応の成否は、各社の柔軟な運用体制と中長期的視野にかかっている。
Source:The Verge