AMDは6月12日、「Advancing AI 2025」と題した特別イベントを開催し、AI用途に特化した新型「Instinct GPU」を発表する見通しとなった。発表の場にはCEOのリサ・スー氏も登壇し、AIエコシステムと同社の戦略的取り組みについて説明を行う予定である。

同社は先月、ゲーミング向けGPU「RX 9070 XT」を発売したばかりで、販売数が前世代の10倍を記録したと報告されたばかりだが、今回のイベントではゲーミング用途の製品は扱われない。代わりに、Nvidiaが先行するAI・データセンター市場での競争力強化が狙いとみられる。

また、AMDはオープンソースのGPU開発基盤「ROCm」関連の新発表も予定しており、ハードとソフトの両面からAIインフラへの注力姿勢を強めている。


Instinct GPUが照準を定めるAI市場の構図とAMDの動き

AMDは「Advancing AI 2025」イベントにおいて、AIとデータセンター向けに設計された「Instinct GPU」の新製品を発表する予定である。このInstinctブランドは、これまで同社が取り組んできたハイパフォーマンス・コンピューティング分野の中核を担っており、特に機械学習や生成AIの処理を支えるGPUとしての役割が期待されている。今回の発表は、ゲーム向けGPU「RX 9070 XT」シリーズの成功に続くものであるが、焦点は明確にコンシューマ市場ではなくエンタープライズ用途に置かれている。

NvidiaがすでにAI向けGPU市場で圧倒的なシェアを築いている中で、AMDのInstinctシリーズはその牙城に切り込む挑戦とも言える。ただし、ハードウェア性能の競争だけでは足りず、AMDはオープンソースプラットフォーム「ROCm」の強化というソフトウェア面にも注力しており、これにより開発者や研究機関とのエコシステム形成を狙う戦略がうかがえる。AI市場への本格参入というよりは、かねてからの布石が結実しつつある段階と捉えるのが妥当である。

RX 9070 XTの販売実績が示すGPU戦略の二層構造

「RX 9070 XT」は発売初週で過去世代の10倍以上の売上を記録し、AMDのゲーム向けGPUとして歴代最高の滑り出しを見せた。このカードはNavi 48 XTアーキテクチャを採用し、4,096基のストリームプロセッサ、16GBのGDDR6メモリ、304WのTBPを特徴とする性能で、Nvidiaの「RTX 5070」および「5070 Ti」との競合に立ち向かう中間価格帯モデルである。この成果があってこそ、Instinct GPUの発表に向けた余裕ある展開が可能になっている。

一方で、6月12日のイベントではゲーム向けGPUの発表は行わないとされており、これはAMDがGPU戦略を二層に分けて展開していることを明確に示す動きと解釈できる。すなわち、RXシリーズでコンシューマ市場における即効的な利益確保を図る一方、Instinctシリーズでは中長期の成長が見込まれるAI市場への布石を着実に進めている。この構造的な住み分けこそが、Nvidiaと異なる形での市場攻略法とも言えるが、結果が出るには一定の時間と継続的な投資が不可欠であろう。

Source:PC Guide