ニュージーランド在住の精神科医アマンダ・フォークナー氏(51歳)は、Apple Watch Series 10の「Vitals」アプリによる異常心拍数の警告を受けたことをきっかけに受診し、急性骨髄性白血病と診断された。
日常的な疲労感や更年期による体調変化と考えがちな症状の裏に潜んでいた深刻な疾患は、診断がわずか48時間遅れていれば命を落としていた可能性も高かったとされる。医師としての専門知識をもってしても見過ごされかけた異変を、ウェアラブル技術が察知した今回の事例は、自己の健康状態を能動的に見守るツールとしての価値を再認識させるものである。
Vitalsアプリが示した数値と診断の決定的な関係

Apple Watch Series 10に搭載された「Vitals」アプリは、心拍数、呼吸数、手首の温度、血中酸素濃度、睡眠時間といった複数の生体データを常時モニタリングしている。フォークナー医師のケースでは、通常55 BPM程度で安定していた安静時心拍数が90 BPM以上という異常値を継続的に示したことで、身体に何らかの重大な変調が生じている可能性が可視化された。
彼女は当初、気候変動や更年期障害と関連づけて受け流していたが、Apple Watchからの度重なる通知が受診の契機となった。診察後すぐに追加検査が実施され、たった4時間で急性骨髄性白血病との診断に至ったことは、「予兆」の把握と「即応」が命を左右する典型的な例と言える。
医師によると、受診があと48時間遅れていれば多臓器不全によって死亡していた可能性が高いという。これは、単なるデバイスの精度というよりも、テクノロジーとユーザーの行動が一体となった結果によって救命が実現されたという点において特筆すべきである。
見逃されがちな体調変化を可視化するウェアラブルの役割
疲労感や体の火照り、月経量の増加など、日常生活の中で多くの人が一時的な体調不良と認識しがちな症状の背後に、深刻な疾患が潜んでいる場合がある。特にフォークナー医師が述べるように、女性が感じる身体的違和感は周囲から過小評価されやすく、受診の遅れにつながる傾向も見逃せない。
そのような中で、Apple Watchが提供する生体情報の蓄積とフィードバック機能は、ユーザーの自己判断を支える客観的な根拠となり得る。Appleは同機能を診断ツールではなくスクリーニングの補助として位置づけているが、今回の事例は、こうした技術が医療の「初動」を促す役割を果たし得ることを証明したものと見てよいだろう。
ヘルスケアの領域では、自覚症状の曖昧さをデータが補完する構造が重要性を増しており、今後さらに普及することで、早期発見と早期治療に結びつく事例は増加する可能性がある。問題はデバイスの保有そのものではなく、その情報にいかに真摯に向き合うかという姿勢である。
Source:Cult of Mac