トランプ前大統領が中国に対して最大145%の関税引き上げを発表した一方で、アリババ株は5.4%上昇し、投資家心理の転換を示した。背景には、2025年2月に習近平国家主席がジャック・マー氏と面会し、中国政府がテック企業への締め付けを緩和したことがある。これによりアリババは規制リスクを後退させ、国内消費復活とAI分野への本格展開により成長軌道に再乗せつつある。

株価は足元の下落で再び予想PER9.9倍と割安圏にあり、証券会社20社すべてが「強い買い」を維持。最高目標価格は190ドルと現行比81%の上昇余地が見込まれている。米中対立の不確実性は残るものの、長期視点ではアリババの構造的な上昇ポテンシャルが意識されつつある。

トランプ関税下でも上昇したアリババ株 習近平との会談と国内政策が好材料に

2025年4月9日、ドナルド・トランプ前大統領が中国に対し最大145%の関税を課すと発表した直後にもかかわらず、アリババ株は5.4%上昇した。背景には、2025年2月に中国の習近平国家主席がアリババ創業者ジャック・マー氏と面会し、テクノロジー業界に対する締め付けの終息を印象づけたことがある。この会談は、かつて政府の象徴的な標的だったマー氏の復権を意味し、中国当局の態度が企業支援へと大きく転換したとの受け止めを市場に与えた。

さらに、中国政府は景気刺激策を相次いで発表し、国内消費の活性化を促進している。アリババはこの恩恵を直接受ける企業の筆頭であり、eコマースを通じた需要喚起と成長余地が再評価されている。とりわけ、ここ1年で「中国株は避けるべき」とされていた投資環境が、政府の姿勢変更と市場改革により見直されつつある。

このような一連の動きは、短期的な地政学リスクがあっても、構造的に中国市場が再び投資対象として注目されていることを示している。トランプ氏による追加関税が中国経済に打撃を与えるとの警戒があったにもかかわらず、中国株が総じて上昇した点は、投資家が政治リスクを乗り越えるファンダメンタルの回復力を意識している証左といえる。

 

AIと価格競争力を武器にするアリババ テック分野での優位性が浮上

アリババは既存のeコマース事業に加え、人工知能(AI)領域での存在感を急速に強めている。とりわけ、DeepSeek社が低価格のAIモデルを市場投入したことを契機に、同社を含む中国企業が米国のテック大手に対抗しうる製品群を、圧倒的な価格優位で展開し始めた。アリババはこの流れの中心にあり、AIの実装力において欧米の競合と拮抗する技術力を保持しつつも、より安価で商業化を進めるアプローチを取っている。

AIの活用は、クラウド事業や自動運転など新たな収益源の創出に直結しており、アリババの成長エンジンは明確に多角化している。特に、同社のAIソリューションは中国国内の中小企業にも導入が進んでおり、サービス提供の広がりが利益基盤の底上げにつながっているとされる。

また、長期的にはフィンテック子会社「アント・フィナンシャル」の上場再開も視野に入っており、企業価値の一段の引き上げが期待される。このIPOはかつて規制当局により阻止された経緯があるが、マー氏との会談を契機に再び現実味を帯び始めた。こうした構造的な要素が積み重なることで、アリババは今後、テック分野における世界的な再評価の対象となる可能性がある。

 

バリュエーションとアナリスト評価が示す割安感 目標株価には大幅な上昇余地

アリババ株は長期にわたり規制リスクが重しとなり、低いPER(株価収益率)での取引が続いてきたが、足元では予想PER9.9倍と依然として割安水準にとどまっている。2026年度における約25%の利益成長予測を踏まえれば、この評価倍率は過小評価と見なす余地がある。2024年からの株価回復局面で一時的に倍率が上昇したものの、2025年春時点では再び投資妙味のある水準に戻っている。

市場関係者の見方も強気に傾いており、Barchartによればアリババをカバーする20人のアナリスト全員が「強い買い(Strong Buy)」と評価している。彼らの提示する平均目標株価は149ドルと、現在価格に対して41%の上昇余地を示している。さらに、最も強気な見通しでは190ドルという水準が掲げられており、これは現行水準を81%上回る水準である。

今後も米中の貿易関係には不確実性が残るが、それが即座にアリババの成長性を覆す要因となるとは考えにくい。市場は、政治的摩擦とは別に、アリババが持つ構造的な競争力や収益性を重視し始めており、現在の株価水準はむしろ長期的な投資機会と捉える向きが強まっている。

Source:Barchart.com