レストラン起業家でありテスラ取締役を務めるキンバル・マスクが、関税による消費者負担の増加を理由に、ドナルド・トランプ前大統領を「数世代で最も高税率な大統領」と非難した。SNS上の投稿では、関税が実質的な税金として家計と雇用に悪影響を及ぼすと主張し、経済学者や業界関係者の見解と一致する内容を展開している。

トランプは2017年に法人税を引き下げた一方、再登板後に関税を大幅に引き上げ、中国・欧州・ラテンアメリカからの輸入品に追加課税を実施。これにより中所得層を中心に数千億ドル規模の負担が発生したとされる。兄イーロン・マスクは政権内に位置しつつも、関税政策を巡って政権幹部と対立しており、マスク兄弟は異なる立場から同様の懸念を表明している。

トランプ政権の関税政策が招く消費課税の実態とマクロ経済への影響

キンバル・マスクの指摘が焦点を当てたのは、関税が間接的に消費者に課される「見えない税金」としての性質である。たとえば、鉄鋼や電子製品に課された25%や10%の関税は、輸入業者から流通、そして最終的に消費者価格に上乗せされる。

これは実質的に広範な消費者に負担を押し付ける構造を作り出しており、特に食品、自動車、製造業といった輸入資材依存の高い産業で価格上昇圧力が強まっている。経済学者らもこの点を強調しており、関税は一部の国内産業保護に繋がる一方で、消費の縮小とインフレの加速、さらには雇用の減少という負の連鎖を誘発するリスクがある。

キンバルの投稿では、消費への課税が購買意欲を鈍化させ、結果として企業活動や雇用の減退を招くと明言された。この論理は経済の循環構造を踏まえたものであり、実需の減退がサプライチェーン全体に影響を及ぼす可能性に言及している。

事実、2025年に再登板したトランプ政権が実施した新関税の影響により、S&P500指数は大幅に下落し、消費者心理にも影響が及んだ。市場の反応として一時的な持ち直しはあったものの、インフレ懸念と支出抑制の圧力は依然として強く、米国経済の持続的成長には構造的な課題が残るといえる。

歴代政権との比較から浮かび上がる「高税率大統領」としてのトランプの位置づけ

キンバル・マスクが注目を集めた理由の一つは、関税を「課税」と見なす観点からドナルド・トランプを歴代でも突出した高税率大統領と定義づけた点にある。一般的に税制改革や社会保障政策の充実を掲げてきたリンドン・B・ジョンソンやフランクリン・D・ルーズベルト、さらには医療制度改革を推進したバラク・オバマ、法人課税強化を進めたジョー・バイデンといった民主党系大統領が「増税」の象徴とされてきた。一方、トランプは2017年に法人税の引き下げを断行し、「減税派」のイメージを打ち出したが、実際には広範な関税導入により、企業・消費者双方に新たな税負担を強いている。

特に2025年以降に発動された新関税措置は、中国や欧州、ラテンアメリカからの輸入製品に対するもので、影響は生活必需品の価格にも及んでいる。これにより、中間層を中心に数千億ドル規模の経済的圧迫が発生していると指摘される。

こうした政策は、直接的な税率の引き上げとは異なるが、家計にとっての実質的な「税」として機能している。つまり、トランプは「表面上の減税」と「実質的な課税増加」という二面性を併せ持ち、従来の政権と異なる形で高負担の構図を生み出している。キンバルの発言はこの構造的な矛盾を突いており、今後の経済政策議論にも波紋を広げることとなる。

マスク兄弟の発言に見る政権との距離と一致する政策的懸念

キンバル・マスクの批判が注目されるもう一つの理由は、兄イーロン・マスクの政権内部における立場との対比にある。イーロンは現在、トランプ政権下で設立された「政府効率省(Department of Government Efficiency、通称DOGE)」の長官的役割を担い、規制緩和と歳出削減を推進している。かつてトランプの経済政策を支持していたイーロンだが、最近では関税政策を巡って政権内のピーター・ナバロと激しく対立。テスラの外国部品依存を批判されたことを受けて、ナバロの実績を軽視する発言まで飛び出す事態となった。

こうした緊張関係は、キンバルの関税批判と表裏一体の構図をなしている。異なる立場にありながらも、両者が一致して関税の経済的弊害に警鐘を鳴らしている点は看過できない。特にテスラやキンバルのレストランビジネスなど、輸入資材に依存する業種においては、関税が原価高騰と雇用不安を招く構造的リスクとなっている。

イーロンの発言は政治的な立場からの発信であるのに対し、キンバルの声は現場の体感に基づくものであり、その相互補完的な性格が市場や有権者に与える影響も無視できない。兄弟の異なるポジションからのメッセージが、現政権の経済政策に対する複層的な疑義を浮き彫りにしている。

Source:Barchart