米著名投資家ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、総額900億円(約6億2700万ドル)にのぼる円建て社債を6本立てで発行した。社債の償還期間は最短3年から最長30年で構成され、同社にとって過去最少規模となる。米国発の関税政策に伴う世界的景気後退懸念が市場を揺るがす中、多くの日本企業が社債発行を見送るなかでの異例の動きといえる。

バフェット氏はすでに日本の総合商社への出資を通じて、日本市場への注目度を高めており、今回の社債発行もその戦略の一環とみられる。ただし、関税リスクが金融市場全体に与える影響を鑑みれば、今後の資金調達戦略には慎重さが求められよう。

市場の逆風下で実現したバークシャーの起債

バークシャー・ハサウェイは2025年4月、日本円建てで6本立て計900億円(約6億2700万ドル)の社債を発行した。償還期間は3年から30年まで幅広く設定されており、同社にとっては円建て債として最小規模の発行となった。世界的な資金調達環境が不安定化する中、今回の発行は慎重な規模設定と緻密な市場タイミングの両面が作用している。背景には、米国でドナルド・トランプ前大統領が打ち出した大規模な関税政策による世界経済の減速懸念があり、多くの企業が債券発行を見送っている状況がある。

実際、アサヒグループやサントリーといった国内の有力企業でさえ、円建て債の発行を延期した事例が報告されており、こうした潮流に逆行するバークシャーの判断は注目に値する。金融市場の不安定さを考慮すれば、同社がより大きな資金調達よりも市場の反応を見極めることを優先した可能性がある。また、短期と長期の債券を併せ持つ構成は、金利変動リスクに対する戦略的対応とも受け取れる。市場の緊張感が続く中、今回の起債は慎重さと市場実績構築を両立させる一手といえる。

既存の対日投資と連動するバークシャーの戦略的選択

バークシャー・ハサウェイは近年、伊藤忠商事や三菱商事など日本の大手総合商社への出資を進め、日本市場への関与を強めてきた。今回の円建て債の発行は、こうした既存投資の補完的な意味合いも持つ。円での資金調達は、為替リスクの軽減手段であると同時に、国内金融機関や投資家との関係強化を図る効果も期待できる。市場が混乱する局面で日本市場からの資金調達を選択した点は、同国に対する信認の現れとも受け取れる。

バークシャーが日本市場での存在感を維持・拡大しようとする意図は、従来の株式投資だけではなく、債券市場を通じた金融的な関係深化にも及んでいる。発行自体が小規模に留まった点については、過度な市場圧力を避けるための配慮や、将来的な追加発行のための“試金石”とする目的も含まれている可能性がある。対日戦略を多面的に展開する姿勢は、単なる投資家という枠を超えて、構造的な経済関係を築こうとする同社の意図を示している。

債券市場の混乱と今後の発行環境への示唆

今回のバークシャーによる円建て債発行は、世界の債券市場が不安定さを増す中で行われた。米国の保護主義的政策を受け、国際的な資本の流動性が低下し、信用リスクが再評価される状況において、日本市場からの資金調達を成功させた意義は大きい。特に、日本の低金利環境下においては、長期安定利回りを求める年金基金や保険会社にとって、バークシャーの高格付け債は有力な投資対象である。

一方で、今回の発行成功が同社の信用力に依存している点は否めず、他の海外企業が同様の条件で資金調達できるかは不透明である。今後も続くと見られる地政学的リスクや政策不確実性を背景に、外資系企業による円建て債発行は一層選別される展開が想定される。したがって、今回のバークシャーの行動は単なる資金調達にとどまらず、今後の外資系発行体による日本債券市場へのアプローチモデルを示唆する事例ともなり得る。

Source:reuters