株式市場の急落にもかかわらず、ARKインベストメントのキャシー・ウッドは積極的な買い出動に転じ、AI関連の2銘柄に注目した。1つは、AIチップ市場を席巻し量子コンピューティングにも布石を打つNvidia。予想PERが50倍超から21倍へと急落したこの銘柄に対し、ウッドは18万株以上を追加購入した。

もう1つは、クラウド事業AWSでAI基盤を提供するAmazonで、すでにポートフォリオ内14位の構成比を誇る銘柄を7,520株買い増し。市場が悲観に傾く中で、AI分野に軸足を置く成長企業への投資が再評価されつつある。

Nvidiaに対するARKの動きと、量子分野を見据えた長期戦略

ARKディスラプティブ・イノベーションETFがNvidia株を18万株以上追加取得した背景には、同社の事業構造に対する明確な評価がある。予想PERが年初の50倍超から21倍に低下したことで、成長企業としては異例の割安水準となり、長期投資家にとっては好機と映ったと考えられる。NvidiaはAI専用チップの領域で他社を圧倒し、データセンター向けハードウェア、エンタープライズ向けソフトウェア、ネットワーク機器などを統合的に提供している。2024年には売上が1,300億ドルに達し、売上総利益率も70%以上を維持。特にAIスーパーコンピュータとの連携を前提に建設中の量子研究センターは、今後の次世代演算分野に向けた布石ともいえる。

Nvidia株がARK内でポートフォリオ比率0.7%、構成順位31位と限定的な存在である点も見逃せない。これは過度な集中投資を避けながら、急成長分野に手堅く分散投資するARKの設計思想を反映している。仮にAI分野の過熱が一巡したとしても、量子コンピューティングという次なる技術的飛躍点を見据えており、長期的な企業価値創出を追求する姿勢は一貫している。短期的な評価に左右されず、革新性と収益性の両立を求める姿勢が、今回のNvidia買い増しに明確に表れている。

Amazonのクラウド事業とAI市場における戦略的位置づけ

Amazon株への追加投資は7,520株と控えめな規模にとどまったが、同社はすでにARKディスラプティブ・イノベーションETFの中で14番目の構成銘柄となっている。保有比率は2.4%以上に達しており、その存在感は際立つ。注目すべきはAmazonの利益構造であり、一般に知られる小売部門よりも、実際にはAWS(Amazon Web Services)による収益が中核をなしている点にある。AWSはNvidia製のプレミアムAIチップに加え、自社開発の低価格チップ、カスタムLLM、フルマネージドAIサービスなどを組み合わせた包括的な提供体制を敷いており、年間売上は1,150億ドルに達している。

AI投資の黎明期にある現状では、世界最大規模のクラウドインフラを有するAWSは、今後の開発や導入競争の中で有利な立場にあるとみられる。また、Amazon株の予想PERが38倍から26倍へと下落しており、業績に対して割安感が台頭していることも、今回の追加投資の一因と考えられる。将来のAI社会において、クラウドは不可欠な土台となることから、インフラ提供者としてのAmazonの影響力は軽視できない。事業のスケーラビリティと収益性の両立を評価し、成長の起点を逃さず捉えようとするARKの投資哲学が鮮明に示された格好である。

市場急落下におけるARKの買い姿勢と長期的視野の重要性

市場全体がトランプ前大統領による関税政策や景気後退懸念に揺れる中、キャシー・ウッドは下落を一時的なショックと捉え、長期投資の好機と見なしている。過去にも株式市場は暴落の後に回復し、最終的に主要株価指数は右肩上がりで成長を遂げてきたという歴史的背景がある。特に今回ウッドが選んだのは、単なる人気銘柄ではなく、AIという構造的成長産業に深く根差し、収益構造が確立された企業である点が特徴的である。市場の恐怖心理に惑わされず、事業の本質と中長期の成長ポテンシャルに基づく冷静な判断が、ウッドの投資行動を支えている。

短期的には、インフレ加速や企業収益悪化のリスクが残るものの、それらを前提にした過剰な売りによって、多くの成長企業が本来の価値以下に放置されている。今回のような逆張り投資は、リスクを内包しつつも、将来的なリターンの源泉となり得る。市場の不安が極まる局面であっても、技術革新と財務健全性の両軸を満たす銘柄を選別することで、長期的な資産形成の柱となる可能性がある。ARKの戦略は、単なるAIブームへの投機とは一線を画し、冷静な視座と構造的理解に裏打ちされた長期戦にほかならない。

Source:The Motley Fool