ドナルド・トランプ大統領は、AppleがiPhone製造を米国内で行うと約束し、支持者の間で注目を集めている。だが専門家は、複雑なグローバルサプライチェーンを抱える同社にとって、完全な国内移行は現実離れしていると指摘する。
Appleは現在、中国を中心に製造体制を構築しており、移転には数十億ドルと数年の準備期間が必要とされる。また、トランプ政権が導入した最大145%の輸入関税は、同社製品の価格上昇を招くとみられている。Appleはインドでの生産拡大やロビー活動を通じて対応を図る一方、トランプ氏の発言には沈黙を保っている。
米国内製造の公約が象徴的なパフォーマンスにとどまる可能性も否めない。
トランプ政権の関税政策とAppleの製造戦略への影響

2025年、トランプ政権は中国製品への関税を引き上げ、通常の125%に加え、フェンタニル関連品に対する20%の国境税を上乗せし、合計145%の負担を課す方針を明示した。この政策は、Appleをはじめとする米国企業のグローバル調達構造に強い圧力をかける形となっている。
AppleはiPhoneの主要製造拠点を中国に依存しており、数千に及ぶ部品を世界中から集約する高度なサプライチェーンを持つ。関税の負担増により、米国内で販売される製品の価格が跳ね上がる懸念が高まっている。
こうした状況に対応するため、Appleはインドでの製造能力を段階的に拡大しており、米国市場向けの製品を中国経由でなくインドから直接輸送するルートの確立に取り組んでいる。また、同社はワシントンにおけるロビー活動を活発化させ、一部関税の免除を求める動きも強めている。
これらの対応は、現実的なコスト抑制と供給網維持の両立を模索する意図があるが、トランプ氏の公約が市場に与える不確実性を拭い去るには至っていない。
iPhoneの米国製造は実現可能かという構造的疑問
AppleのiPhone製造を米国内に全面的に移すというトランプ大統領の発言に対し、業界専門家の間では冷静な分析がなされている。最大の障壁は、熟練労働者の不足、インフラの未整備、部品供給の再編困難さ、さらには製造コストの大幅な上昇である。
米国には、台湾のTSMCや中国のFoxconnのような高精度量産体制を短期間で代替できる製造基盤が存在しない。iPhone一台の組立には何百という微細工程が必要であり、それを国内に収めるには時間と巨額の投資を要する。
一部では、最終組立や高付加価値部品のみを米国で行う「部分的内製」案も議論されているが、グローバルに最適化された現行の生産体制を根本から変えるには、地政学リスクや経済的合理性を慎重に秤にかける必要がある。Apple自身がこの点に沈黙していることも、構造的難題の存在を如実に物語っている。
大統領の言葉が現場に落とし込まれるには、現実的な施策と段階的実行が求められるが、その道筋は依然として見えていない。
Source:Ars Technica