Metaは、StripeのCEOパトリック・コリソン氏と元トランプ政権の国家安全保障副補佐官ディナ・パウエル・マコーミック氏を取締役会に迎えると発表した。コリソン氏は決済業界における起業家として知られ、915億ドルとされるStripeの評価額は業界内外に影響力を持つ。
パウエル・マコーミック氏はゴールドマン・サックスでの長年の実績と政権中枢での経験を併せ持ち、政財界に強いパイプを築いてきた。両者の就任は、Metaの経営層がグローバル戦略と政策対応において布陣を強化する意図の表れとみられる。
とりわけ、対トラスト法の圧力や政権交代への備えといった文脈の中で、今回の人事は単なる多様性の補強にとどまらず、次なる舵取りへの布石と位置づけられる。
Metaが取締役に求めた「起業家精神」と「政界通」

Metaが新たに取締役に迎えたパトリック・コリソン氏とディナ・パウエル・マコーミック氏は、全く異なる経歴を持つ人物である。コリソン氏は、Stripeを2010年に設立し、今年初めには915億ドルの評価額を記録した。現在もCEOとして企業成長を率いており、デジタル決済市場における影響力は絶大である。
一方、パウエル・マコーミック氏は、トランプ政権下で国家安全保障担当副補佐官を務めたほか、ゴールドマン・サックスで16年にわたってリーダー職を歴任した経歴を持つ。この2人の起用は、Metaが経営上の意思決定に多角的な視点を導入しようとする姿勢を物語っている。
コリソン氏のテクノロジー業界における現場感と、パウエル・マコーミック氏の政界・金融界における交渉力は、同社が直面する規制強化や国際的展開の局面で機能する可能性がある。特に、コリソン氏は以前からMetaのアドバイザリーグループの一員として関与しており、今回の登用はその関係を制度的に強化するものと位置づけられる。
経営層にこれほど異質な人材を同時に迎える動きは、Metaが危機感を持って外部視点を求めている証左とも言える。
規制強化と政治環境への対応を視野に入れた人事
米国内で激化する反トラスト法による審査や、SNSに対する規制強化の動きは、Metaにとって経営課題の最上位に位置づけられている。Axiosの報道によれば、今回の人事は単にビジネス面の補強にとどまらず、「トランプ政権との関係を強化しようとする動きの一環」とされる。大統領選が近づくなか、政界とのパイプを持つ人材の確保は、政策の潮流をにらんだ防衛的布陣と読み取れる。
特に注目すべきは、パウエル・マコーミック氏が政権中枢で培った人的ネットワークと、安全保障の文脈を理解した実務経験である。これによりMetaは、今後の規制環境に対して受動的に対応するだけでなく、戦略的に対話を主導する立場を狙う意図も見える。
また、Stripeの成長過程で規制や国際市場と向き合ってきたコリソン氏の実務感覚も、社内の議論に現実的な重みを加える要素となる。人選のバランスから見ても、今回の構成は明らかに「政策と市場、両面の影響力の最大化」が意図されたものと考えられる。
Metaのガバナンス改革に映る危機意識
Metaが取締役会に外部人材を迎える動きは、ここ数年で顕著に進んでいるが、今回の任命にはこれまで以上に強いメッセージが含まれている。かつては創業者色の強い経営陣によって支えられていた同社だが、近年はプラットフォームとしての責任を問われる場面が急増し、透明性と説明責任が経営の中心テーマとなっている。
2024年以降、生成AIやメタバース事業の先行きに対する市場の懐疑も強まり、より実効的なガバナンス体制の構築が不可欠となっている。そのような中での今回の人選は、単なる顔ぶれの刷新ではなく、Metaが経営構造自体を再設計しようとする意志の表れである。
特に、急成長を支えてきたテクノロジー偏重の視点に、政策的・金融的な均衡感覚を加える構図は、社内外に向けて強いシグナルを発している。ガバナンスの多様化を通じて、社会との接点を再構築しようとするこの動きが、今後のMetaの信頼回復やブランド戦略にどのような影響を及ぼすか注視されるべきである。
Source:TechCrunch