テスラ(TSLA)は、米国製のモデルSおよびモデルXの新規受注を中国市場で停止すると発表した。これは、習近平政権による米国製車両への報復関税引き上げを受けた措置であり、同社にとって実質的な販売停止を意味する。これによりTSLA株は下落し、年初来高値からの下落幅は40%を超えた。
同社元取締役のスティーブ・ウェストリー氏は、同社が新製品の遅延、米中対立、BYDの台頭という「三重苦」に直面しており、さらなる下落リスクがあると指摘した。また、テスラは自動運転技術でもWaymoに後れを取り、価格面でも競合に劣勢とされている。アナリストは目標株価を309ドルと見ており一定の上昇余地を見込むものの、市場の警戒感は一層強まっている。
中国でのモデルS・X注文停止が象徴するテスラの構造的苦境
テスラは、米中間の通商摩擦が激化する中で、中国市場におけるモデルSおよびモデルXの新規注文受付を停止した。これは、中国政府が米国製電気自動車に最大125%の報復関税を課す方針を発表したことを直接的な理由とする。両モデルは米国工場で生産されており、今回の政策転換により中国市場での競争力が事実上喪失された形となる。これに対して投資家の反応は敏感であり、TSLA株は発表後に下落し、年初来高値からの下落幅はすでに40%を超えている。
元取締役スティーブ・ウェストリー氏は、この動きを一過性のものではなく、より広範な構造的課題の表れと見ている。彼は、テスラが新製品投入の遅れ、米中政治対立、そしてBYDを代表とする中国企業の急伸という「三重苦」に直面していると指摘する。
実際、同社が2020年以降に市場に投入した新型車はサイバートラック1車種にとどまり、その完成度や販売実績に対しても懐疑的な見方が出ている。注文停止という今回の判断は、テスラが地政学的リスクと競争環境の変化に適応しきれていない現状を如実に示している。
一方で、短期的には生産の最適化や新市場の開拓による軌道修正も検討可能ではあるが、米国製という原産地要因が規制障壁となる以上、中国市場の収益拡大は大きく制限される公算が大きい。今後、テスラが国際生産戦略を再構築できなければ、アジア地域での影響力は確実に低下していく可能性が高まる。
競合優位性の喪失と自動運転分野における停滞が株価の重荷に

ウェストリー氏は、テスラが直面する課題のひとつとして、自動運転技術の領域における競争力の欠如を強調する。Waymoが週20万件のライドサービスを実施しているのに対し、テスラのフルセルフドライビング(FSD)は未だ一般市場での普及には至っておらず、開発水準・実装範囲ともに競合に後れを取っている。加えて、FSDの価格は9,000ドルと高額であり、BYDが自社車両に無料で高度な運転支援システム「God’s Eye」を搭載し始めたことと比較しても、テスラの優位性は揺らぎつつある。
また、革新性を象徴するはずの新製品ラインも停滞しており、サイバートラック以降、大型の市場投入が実現していない。これはEV市場全体が成熟段階に入る中で、ブランド力や価格競争力だけでは持続的成長が困難になっていることを意味する。これにより、機関投資家やアナリストの評価にも変化が生じつつあり、ウォール街ではTSLA株の目標株価を引き下げる動きが見られる。
現時点においても目標株価の平均は309ドルとされ、現在の株価から24%の上昇余地があるとされるが、この水準はかつての成長期待を織り込んだ数値とは異なり、慎重な前提に基づいている。短期的な反発はあっても、中長期的に株価の牽引材料となるのは、技術革新と地政学的な安定性の両立であり、現状のままでは市場信認の再獲得は難しい構図といえる。
Source:Barchart.com