OpenAIは、ChatGPTのメモリ機能を拡張し、過去すべてのチャットを横断的に参照する能力を導入した。これにより、ユーザーの好みやトーン、関心を継続的に反映したパーソナライズ回答が可能となるが、プライバシーへの懸念も高まりつつある。
新機能は、ChatGPT PlusおよびProで利用可能であり、エンタープライズや教育向けには今後の提供が予定されている。ユーザーは、保存された情報やチャット履歴の参照設定を任意に管理できるが、Wharton教授のEthan Mollickや投資家Allie K. Millerらは、会話の蓄積が意図せぬ推論や評価につながる可能性を指摘している。
会話体験の向上を狙った一方で、ChatGPTが「聞き手としての境界」を超えるのではないかという問いが、今後のAI倫理と透明性を巡る議論を加速させると見られる。
ChatGPTのメモリ機能が拡張 ユーザー体験の継続性と利便性が向上

OpenAIが発表したメモリ機能の拡張により、ChatGPTは過去すべての会話を横断的に参照する能力を獲得した。従来はユーザーが明示的に伝えた情報の保存に限られていたが、今回のアップデートにより、トーンや関心、会話の流れまでも継続的に反映することが可能となった。たとえば、文書作成や学習支援において、過去のコンテキストを踏まえた助言や情報提供が実現しやすくなる。
この機能はChatGPT PlusおよびProプラン限定で先行提供され、将来的にはEnterprise、Team、Eduユーザーにも展開される予定である。設定画面では、「保存されたメモリの参照」と「チャット履歴の参照」の2つの項目を用いて、ユーザーがメモリ活用の度合いを細かく制御できる。メモリを一時的に無効化できる「一時的なチャット」機能も併用可能であり、柔軟性は確保されている。
こうした機能強化は、生成AIの実用性を一段階引き上げる可能性を持つ一方で、過剰な情報蓄積への懸念も無視できない。会話の円滑化と引き換えに、利用者が予期しない文脈をAIが記憶・反映することで、業務の透明性や操作性に影響が及ぶ余地も残されている。
「常に聞いている」感覚への警戒 専門家と投資家の声が示す課題
ChatGPTのメモリ機能拡張は技術的進歩であると同時に、ユーザーのプライバシー感覚に関わる議論を呼んでいる。AI投資家Allie K. Millerは、「ChatGPTが常に聞いているように感じる」と警鐘を鳴らし、Whartonの教授Ethan Mollickも「業務利用の場面では、過去のやりとりに基づいた回答の変化を避けたい」と述べている。
さらにOpenAI共同創設者のAndrej Karpathyでさえ、7ヶ月前の質問が評価に影響するのではないかと懸念を示しており、業界内外から慎重な視線が注がれている。
メモリ活用の高度化は、ユーザー体験の質的向上をもたらす可能性があるが、その恩恵は一様ではない。特に業務や教育の現場では、過去の情報がどのように活用されているかを可視化する手段が求められる。設定変更が可能とはいえ、ユーザーが意図しない情報保持が会話に反映されるリスクを完全に排除することは難しい。
情報技術が個別最適化を進める一方で、記憶という性質に内在する倫理的課題が浮き彫りとなっている。AIが「聞き役」に徹するだけでなく、「記録者」としての責務を持つようになった今、使用者の理解と設計側の透明性の両立が問われている。
Source:VentureBeat