Microsoftは、2024年に強い反発を受けて停止していたAI機能「Recall」の再導入を発表した。この機能はユーザーのPC操作を3秒ごとにスクリーンショットとして記録し、内容を索引化して検索可能にするもので、Windows 11のプレビュー版「Build 26100.3902」に搭載され始めている。

セキュリティ専門家からは、内部不正や国家レベルのスパイ活動への悪用、消えるメッセージアプリの内容さえ保存される可能性など、プライバシー侵害リスクへの懸念が再燃している。Microsoftは本人認証や保存の一時停止機能などを強調するが、昨年と同様の不信感を払拭できるかは不透明である。

ユーザー行動を記録するAI機能が再び登場 Recallの仕組みとその仕様

Recallは、Windows 11上でユーザーの操作を3秒ごとにスクリーンショットとして記録・保存し、その内容をAIによって解析・インデックス化する機能である。たとえば、開いたアプリや見たウェブサイト、作成中の書類などが定期的にスナップショットとして蓄積され、後から自然言語での検索によって容易に呼び出すことが可能になる。Microsoftはこの機能を「Copilot+ PC」の一部と位置づけており、AIによる作業効率の向上を強調している。

今回の再導入に際し、Microsoftはプライバシー面への配慮として、スナップショット保存のオプトイン方式、Windows Helloによる認証、保存の一時停止機能などの制御手段を加えている。ただし、Recallが有効な状態であれば、Signalのような消えるメッセージの内容や、業務・家庭内での機密的な操作も記録対象となり得る。利便性の裏側に、利用者が気づきにくいリスクが潜んでいる点が看過されるべきではない。

セキュリティ専門家の警鐘 Recallが抱えるリスクの本質

Recallに対して強い懸念を示しているのは、セキュリティとプライバシーの専門家たちである。記録されたスナップショットには、閲覧中のウェブページやチャットの内容、入力中の文章など、ユーザーの行動が詳細に反映されるため、仮に第三者が管理者権限でアクセスした場合、その内容は極めて機密性の高い情報資産となる。専門家は特に、家庭内暴力の加害者や社内不正、サイバー犯罪者、国家主導のスパイ活動といった具体的な悪用シナリオを挙げて警告を発している。

また、情報がローカルに保存されている点についても、物理的なアクセスを許した場合に脆弱性が生まれるという指摘がある。Microsoftが提示する制限機能や本人認証はあくまで防壁の一つに過ぎず、Recallの根幹にある“記録し続ける”という思想そのものがプライバシーと根本的に相容れないとする見方もある。利便性だけを前面に打ち出すアプローチでは、慎重な判断を求める声を抑えることは難しい。

拡大するエンシッティフィケーション Recallが映し出す技術と信頼のズレ

Recallの再導入を受け、多くのユーザーが感じたのは単なる不安ではなく、プラットフォームに対する信頼の揺らぎである。企業が利便性の名のもとにシステムの透明性を損ね、制御しづらい形でユーザー体験を変質させていく現象は、「エンシッティフィケーション(enshittification)」としてすでに様々な分野で批判を集めている。今回のRecallもその延長線上にあり、本質的には“役立つ”ことよりも“知らぬ間に記録される”ことへの違和感が強調されている。

Recallの価値を正当に評価するには、その導入の意図や設計思想に対して透明性を持って説明する姿勢が求められる。しかし現状では、強い批判を受けた機能を再びテスト版としてひっそり戻す形が取られており、ユーザーとの対話よりも既定路線の実行が優先されている印象を受ける。技術的な進歩が本来の目的と乖離し、使い手に対して“便利だけれど不気味”という印象を与える事例として、Recallは今後の技術設計に一石を投じる存在となりそうだ。

Source:Ars Technica