Microsoftは、昨年から物議を醸してきたWindows 11の「Recall」機能を、Windows Insider向けに再び導入した。Windows 11 24H2 ビルド26100.3902を対象にした今回の展開は、Copilot+ PC限定で行われており、5月に予定されているアップデートの先行プレビューとされている。Recallはユーザーの操作をスナップショットで記録し、高度な検索によって過去の作業を容易に参照できるという機能だが、その仕組みがプライバシー侵害にあたると懸念されてきた。

Microsoftはスナップショットの暗号化やWindows Hello認証による保護措置を強調し、安全性に配慮した設計をアピールするが、今回の試験導入が世論の反発を和らげる決定打となるかは不透明である。

Recallの記録機能が持つ技術的価値とその裏にある懸念

Recallは、Windows 11のCopilot+ PCに搭載される新機能であり、ユーザーの作業内容を自動的にスナップショットとして保存し、それをもとに過去の作業を検索できる仕組みを持つ。検索対象はアプリケーションの操作履歴やファイル、設定など多岐にわたり、特定の操作をすぐに呼び出せる点では、作業効率向上への寄与が期待されている。Microsoftはこの機能を「写真記憶力」と表現し、生成AIとの連携が視野に入った進化系の検索体験として位置付けている。

一方で、ユーザーのあらゆる操作を断続的に記録する仕様は、プライバシーの観点から非常にセンシティブである。とりわけ、仕事や個人生活に関する情報が無意識のうちに記録される可能性に対して不安視する声は根強く、セキュリティの専門家からは「プライバシーの悪夢」との指摘もあった。Microsoftはスナップショットの暗号化やWindows Helloによるアクセス制限、オプトイン制の導入などで対処しているが、技術的な保護措置だけではユーザーの感情的な反発を払拭するには不十分といえる。

段階的リリースと対象限定の背景にある試行錯誤

Recallの展開は、2024年の発表以降、度重なる延期と方針転換を経て現在に至る。6月には一時的に開発が中止され、その後「Copilot+ PC」に限定した形でWindows Insider ProgramのRelease Previewチャネル向けにプレビュー提供されることとなった。2025年5月のリリース候補として現段階ではビルド26100.3902でテストが進行中であり、万が一大きな問題がなければ一般提供も検討されている。この流れから、MicrosoftはRecallを急いで導入するのではなく、極めて慎重に受け入れ状況を見極めていることが読み取れる。

正式リリース前に制限された環境下でRecallの動作や反応を観察するのは、過去に見られた批判を踏まえた対応ともいえる。ユーザーの信頼回復には、技術的な完成度と同様に、企業としての姿勢や説明責任も求められており、今回の限定リリースはそのバランスを探る重要なフェーズといえる。Recallが便利な補助ツールとして浸透するか、あるいは今後も慎重な評価を要する実験的機能として位置付けられ続けるかは、今回のプレビューの結果次第である。

Source:ZDNET