ロボティクス企業Dexterityは、物流および製造現場に革新をもたらす産業用スーパーヒューマノイドロボット「Mech」を正式発表した。最大59キログラムの重量物を持ち上げ、自律走行や触覚センサーを駆使して複雑な作業をこなすこの2本腕型ロボットは、物理AIと呼ばれる数百のAIモデル群を内蔵し、パレタイジングからピッキングまでを精緻に実行する。

最大16台のカメラと高度なソフトウェア更新機能を備えたMechは、現場での即時適応を可能とし、人間1人で10台の同時操作も視野に入れる。CEOサミール・メノン氏は「物流の根本的変革」と位置付け、労働集約的課題の解消を目指す姿勢を明確にしている。

現在は産業顧客向けに提供が開始され、初期段階ではトラック積み込み用アプリに対応。今後も段階的な機能拡張が計画されており、製造業の自動化ニーズを捉える動きとして注目される。

Physical AIが可能にしたMechの高度自律機能と安全性への配慮

Dexterityが開発したスーパーヒューマノイドロボット「Mech」は、最大59キログラムの荷物を持ち上げながら倉庫内を自律走行し、ピッキングや積み込みといった作業を実行する。移動には独立操舵の4輪を活用し、狭小スペースでも高い柔軟性を発揮する構造である。

特筆すべきは、Mechが搭載する「Physical AI」システムであり、これは数百に及ぶAIモデルを統合することで、視覚・触覚・運動制御を高度に連携させる。16台まで搭載可能なカメラと触覚センサーにより、ランダムな物体配置への対応や壊れやすい荷物の取り扱いも可能となった。

このAIは、個々の物体の識別から最適な作業手順の自律判断に至るまでをリアルタイムで処理する能力を備えており、既存の産業ロボットには見られない学習的・認識的な処理を行う。さらに、人間1人で最大10台を操作できる運用設計は、人的負荷を大幅に軽減し、長時間作業による身体的リスクや安全性問題の低減にも貢献する構成といえる。

このようにMechは、単なる自動化機械にとどまらず、安全性と効率性を両立する次世代の産業用ロボットとして設計されている。労働集約的作業の代替として現場に導入されることで、重労働の軽減と作業環境の再構築につながる可能性を秘めるが、その導入には運用者の適応や作業フローの見直しも求められる。

 

製造業における人間とロボットの協働を想定した設計思想と市場導入戦略

Mechは、既存の労働力とインフラに適応する協調型ロボティクスとして設計されており、完全自律型というよりも人的操作との連携を前提としたハイブリッド運用を想定している。Dexterityは、Mechを「インテリジェントで柔軟なロボット」と位置付け、人間のような適応力と超人的な物理能力を併せ持つ存在として、複雑な現場課題に対処する手段として市場投入した。

初期導入段階ではトラック積み込みに特化したアプリケーションが提供され、今後はソフトウェア更新によるタスク追加が予定されている。つまり、Mechは単一機能に閉じた装置ではなく、アップデートを通じて機能拡張が可能な「プラットフォーム型ロボット」として構想されている。この構造により、産業界の多様なニーズに柔軟に対応できる可能性が生まれる。

一方、すでに産業およびエンタープライズ向けに提供が開始されたことは、ロボティクス導入のボトルネックが技術的というよりも制度的・経済的側面に移行しつつあることを示唆する。ロボットと人間の共存を前提にするMechの設計思想は、オートメーションの進化における次なる段階を象徴している。だが、実運用の現場における制度整備とスキルギャップへの対応が導入の成否を左右する要素となる。

Source: AI Business