テスラ(TSLA)の株価に対する評価は真っ二つに分かれている。電気自動車メーカーとしての価値を過大と見る向きもあれば、ARK Investが予測するように2029年に株価2600ドルへ上昇しうる未来志向のテクノロジー企業と捉える見方も存在する。特にARKの試算では、企業価値の88%がロボタクシー事業に起因し、既存のEV事業は9%にとどまるとされる。
一方で、ロボタクシー「Cybercab」の量産体制や無監督自動運転の実現には多くの前提条件が必要であり、規制、技術、安全性、コスト構造など数々の不確実性が残る。2025年6月に米オースティンでの有料運行開始が予定されているが、市場はその成否を注視している。
こうしたリスクを踏まえると、テスラ株が「億万長者メーカー」になるかどうかは、リスク許容度の高い投資家や革新性を重視するポートフォリオ戦略に委ねられるだろう。高成長の期待と未確定な実行力が、評価の分水嶺となっている。
ロボタクシーへの依存度が高まるARKの評価モデルとその構造

ARK Investのテスラ株評価モデルは、従来の自動車メーカーとは異なる次元で企業価値を捉えている。同社の試算によれば、2029年のテスラ株の目標価格を2,600ドルとし、そのうち実に88%がロボタクシー事業、わずか9%がEV事業由来とされる。
つまり、テスラの将来価値の中核はEV販売ではなく、自動運転を前提としたモビリティ・サービスの成功にある。特にCybercabと呼ばれる新型ロボタクシーの投入計画が重要視されており、同車の量産開始は2026年、サービス開始は2025年6月のオースティンを予定している。
このような評価構造は、従来の収益基盤を基にした株価予測と大きく異なり、将来的な技術の進展と規制の緩和、さらに市場での受容という複合的な条件に依拠している。加えて、テスラは他社と比較して自動運転に関するデータ蓄積が豊富であり、これがFSD(完全自動運転)アルゴリズムの改良に優位性をもたらすとされる。ただし、こうしたモデルは極めて前提依存度が高く、事業化に伴う不確実性も多く内包している。
テスラ株をこの評価モデルに基づき判断するには、Cybercabの実用化と無監督FSDの商用展開が計画通りに進むことが必須条件となる。それゆえ、投資判断においては、技術的完成度のみならず、法的承認、安全性、運用コストの低減といった複数の要素が複雑に絡み合う現実を見極める必要がある。
競合環境とコスト構造が示すテスラの実行力とその限界
テスラはEV業界の中で独自の地位を維持している。2024年第4四半期時点で米国EV市場において44%超のシェアを占めており、依然としてブランド力と販売力において他社を圧倒している。また、車両1台あたりのコストを2023年の38,000ドル超から2024年末までに35,000ドル未満へと引き下げるなど、生産効率の改善も進んでいる。このコスト削減は、Cybercabの低価格化や新型EVの大衆化を支える上で決定的に重要である。
一方、競合他社の状況を見ると対照的である。たとえばフォードは2016年に自動運転の量産計画を掲げながらも、2024年にはEV部門で51億ドルの損失を計上しており、テスラとは異なる局面に直面している。これに対しテスラは、金利上昇下でもEV投資を継続し、自社の自動運転機能から得られる実走行データを武器にFSDの改善を図っている。
ただし、すべてが順調というわけではない。FSDおよびCybercabの開発には安全性や規制対応といった外部要因が強く影響し、これが遅延や中断のリスクを高める。また、テスラの部品の多くが中国に依存しており、米中貿易摩擦が激化すれば調達コストの上昇は避けられない。競争優位を築いてきたテスラであっても、グローバルな供給網と政治的リスクに対する耐性が問われる局面に差しかかっている。
個人投資家が直面する資金壁とリスク許容の条件
仮にARKが掲げるテスラ株の目標価格2,600ドルが現実となるとしても、そこに到達するには多額の初期投資が必要である。記事執筆時点で100万ドルの資産形成を狙う場合、テスラ株を385株、すなわち約105,000ドル分購入する必要がある。これは一般的な個人投資家にとっては相当な負担であり、万人に開かれた「億万長者への道」とは言い難い。
また、株価の大部分が実現されていない技術や未来のサービスに依存しているため、リターンには相応のリスクが伴う。これまでのテスラはFSDや自動運転の発表において過剰な期待を喚起しながら、進捗が遅れることも少なくなかった。オースティンでのCybercab商用化計画も具体的なスケジュールは示されたものの、現実的なハードルは依然として高い。
そのため、この株式に向き合うには、長期的視点を持ちつつも柔軟なリスク管理が求められる。分散投資を実践し、テスラをポートフォリオの一部とする形で、段階的にエクスポージャーを高めていく姿勢が重要となる。テスラ株は、革新性と潜在的成長力に賭けることを許容できる一部の投資家にとってのみ、意味のある選択肢となる可能性がある。
Source: The Motley Fool