バークシャー・ハサウェイの会長兼CEOであるウォーレン・バフェットは、3,340億ドルという過去最大規模の現金を保有しながらも、FRBによる市場安定化措置が行われるまでは新たな株式投資を控える姿勢を示す可能性がある。

過去1年、Appleやバンク・オブ・アメリカといった主力銘柄を売却し、市場混乱前に資金を引き揚げたバフェットの動きは注目を集めた。現在のS&P500の下落率は20%超、ナスダックも2日間で10%超の下落という状況下においても、彼はなお静観を貫いている。

2008年の金融危機時には迅速な資金投入で市場を救ったバフェットだが、2020年のパンデミック時にはFRBの出方を見極めたうえで自己株買いに資金を投じた。今回も同様に、第一の一手を打つのは中央銀行であるべきとの信念がにじむ。

バフェットが動かぬ理由はFRBの出方にあり

ウォーレン・バフェットが現金3,340億ドルを保有しながら株式市場に参入しない理由は、過去に見られたFRBの介入を待つという明確な姿勢にあるかもしれない。2020年のコロナ禍では、市場混乱にも関わらずすぐに動かず、FRBパウエル議長による緊急利下げと資産買い入れの決定後に動きを見せた。彼の過去の行動パターンからすれば、中央銀行の「意思表明」が市場の方向性を決定づける契機と見なしているのは明らかである。

実際、2008年の金融危機では他に先駆けて5億ドル単位の資金を複数の大手金融機関に投入し、市場の信認を高めた過去を持つ。だがそれは「FRBの支援が明確ではなかった時期」だったからこそ可能だった。現在のように混迷が深まる中では、逆に政策の方向性が見えるまでは「敢えて動かない」という姿勢が合理的といえる。

市場が不安定であるときこそ、自己資本の安全性と瞬発力が問われる。バフェットの慎重な態度は、FRBが市場に与える信頼という不可視のファクターの重要性をあらためて浮き彫りにする。彼にとっては、安値で買うこと以上に「信頼できる土台の上で買うこと」が優先されるのだ。

株式市場の混乱とバークシャーの現金戦略の意義

ナスダックが2営業日で10%超下落し、ダウ平均が1,500ポイント超の連続安となった今、バフェットが株を買わずに現金を維持する戦略は極めて防御的でありながら、実効性を備えている。2020年と2021年に自己株買いに約52億ドルを費やした実績は、その資金が最も効率的に使える場所を冷静に見極めた結果といえる。

また、Appleやバンク・オブ・アメリカといった主力株からの事前撤退も、決して市場のタイミングを狙ったものではないとされるが、結果的に暴落前の資金回収という形で評価されている。彼の行動は「何も買わない」ことで投資判断を表明するという、静かなる意思表示でもある。

この現金保有策は、外部環境が極度に流動的である状況下において、迅速に次の機会へ対応できる「選択肢の余地」となる。今後、FRBが市場安定化に向けた具体的措置を講じる段階が訪れれば、バフェットは再び迅速な意思決定で市場の注目を集める可能性がある。ただし、そのタイミングは彼の中で極めて明確で厳密に管理されている。

過去の危機と今回の違いが示す市場環境の変質

2008年のリーマン・ショック時、バフェットは金融機関に資金を注入することで市場全体の信認回復に寄与した。ゴールドマン・サックスやバンク・オブ・アメリカへの投資は、当時の市場が「他に買い手がいない」ほどに悲観に包まれていたからこそ成立した取引であった。だが、今回の市場混乱は、過剰な期待と政策不透明性が生む「信用の揺らぎ」によるものだ。

トランプ前大統領の経済政策の影響も指摘される中で、過去のような需給の一時的バランス崩壊ではなく、構造的な不安が投資家心理を冷やしている。こうした中で、FRBが金融政策の明確な方向性を示さない限り、バフェットにとって「割安」の基準自体が成立しない。過去と異なり、市場そのものがファンダメンタルズから乖離しやすくなっているからだ。

この点において、彼が「今は買い場ではない」と考えるのは単なる慎重さではなく、状況に対する論理的な応答である。今回の沈黙は、相場の本質的な転換点が訪れていないことの表れとも解釈できる。今後、市場がどのように「信頼」を回復していくのか、それが彼の動きを左右する最大の要素となる。

Source:msn