米国の対中輸出規制により、Nvidiaは主力製品H100の代替としてH20チップを中国市場に投入しているが、同製品は性能面で大きな妥協を強いられている。モルガン・スタンレーは、H20の性能はH100の4分の1程度に留まり、粗利率も50%前後と同社平均を大きく下回ると分析。米商務省による出荷許可の報道もあるが、確認は取れておらず、依然として実質的な販売制限は続いている。
中国企業は、規制対応チップやパブリッククラウドの利用など限られた選択肢の中で、リスクと費用を天秤にかけながら対応を迫られている。H20は最先端性能から大きく劣るものの、現実的な調達手段として一定の需要を維持しており、今後もNvidiaの中国市場戦略にとって試練の象徴となる可能性がある。
H20の性能制限と収益圧迫 Nvidiaの中国向け戦略に潜む構造的課題

Nvidiaが中国市場向けに投入したH20チップは、主力製品H100の機能を制限した構成であり、米国の輸出管理規則に準拠するために、演算性能を意図的に抑制した仕様で設計されている。モルガン・スタンレーの試算によれば、H20の性能はH100比で約75%低く、粗利率も50%にとどまるとされる。これはNvidiaの全社平均である70%台を大きく下回っており、同社の利益構造に対する下押し圧力となっている。
この制約の背景には、米政府の安全保障上の懸念から先端AIチップの中国向け輸出が禁止されている現実がある。報道によれば、米商務省が一部出荷許可を検討しているともされるが、モルガン・スタンレーは「その報道は確認されていない」と明言し、今後も実質的な制限が継続する可能性が高いとの前提を維持している。こうした不透明な環境下で、H20の中国展開は中長期的な採算性を欠く可能性がある。
一方で、H20が中国で一定の需要を維持している背景には、高性能チップを入手できない状況下で、企業が現実的な選択肢を模索せざるを得ない構造がある。競合であるAMDのMI308などと共に、H20は「制限のなかで最も現実的な選択肢」として位置付けられつつあるが、Nvidiaが価格競争に晒されるリスクも内包しており、同社にとって収益性と市場維持の両立は今後の課題である。
中国企業の選択肢と制度的リスク AIチップ供給網の分断が浮き彫りに
モルガン・スタンレーが提示する分析では、中国企業が高性能GPUを調達する手段は限定的であり、合法的な選択肢としては①クラウド経由でのGPU利用、②H20やAMD MI308のような規制対応品の購入にほぼ集約されている。裏ルートでの調達や二次市場での入手は、財務的・法的なリスクが高く、企業としては選びにくいとの指摘がなされている。
クラウド経由による利用は、グローバルなクラウドプロバイダーに依存する形となるが、データ主権や安定的なアクセスの観点から、全ての中国企業にとって実効的な手段とはなり得ない。現実的には、国内で合法的に入手可能な規制対応品の購入が選ばれる傾向にあり、それがH20の相対的な需要維持につながっている。だが、H20の性能は米国の最新世代であるBlackwell GPUと比較して最大25倍の差があるとされ、技術的な格差は決定的である。
このような状況は、米中間の技術分断が現実のものとなりつつあることを示している。H20のような「制約下の製品」に依存せざるを得ない中国企業にとって、AI競争における戦略的な選択肢は狭まりつつあり、Nvidia自身も米国の政策に左右される形で柔軟な市場戦略を取りにくい構造にある。国家間の制度的対立が、企業の技術導入能力と競争力にまで影響を及ぼし始めていることが浮き彫りとなった。
Source:Investing.com