Appleは米中間の通商摩擦や追加関税の脅威にもかかわらず、インドでのiPhone生産体制の拡大を継続する方針を崩していない。アナリストのミンチー・クオ氏によれば、Appleは旧正月時期に米国向け端末を前倒しで出荷し、第2四半期の関税影響を回避する在庫を確保しているという。

その一方で、米政府は半導体を含む電子機器への関税免除を1~2か月以内に終了させる可能性を示唆しており、Appleの供給体制に新たな圧力がかかりつつある。インドへの生産シフトは短期的に供給や在庫に混乱を生む懸念があるが、Appleは長期的に地政学リスクの分散と市場安定を図る構えである。

インド移転を加速させるAppleの出荷戦略と在庫調整の実態

Appleは、米中間の関税摩擦が再燃する中、インドでのiPhone生産強化を着実に進めている。TF International Securitiesのミンチー・クオ氏によれば、Appleは2024年末からインドでの最終組立比率を拡大し、旧正月前に米国市場向けの出荷を前倒しで完了させた。この戦略は第2四半期の新たな関税適用リスクを回避する目的がある。

Appleは約2か月分の在庫を確保しており、これにより短期的な供給の安定が期待されるが、例年9月に控える次世代iPhoneへの生産移行時期と重なり、生産ラインの逼迫や既存モデルの在庫減少による販売機会の逸失など、負の連鎖を招く懸念も残る。

一方で、中国におけるiPhoneの米国向け生産ラインは事実上停止しており、Appleの依存先がインドに大きくシフトしている実情が浮き彫りとなった。現地サプライヤーの育成と製造スピードの調整が鍵を握るが、インドのインフラ整備や熟練労働者の確保には時間がかかる。短期的なリスクを抑制するための出荷前倒しは合理的ではあるが、中長期では現地対応力が問われる局面が到来している。

米国通商政策の不確実性がAppleに与える継続的圧力

米国政府は、現在も対中関税を維持しており、さらにフェンタニル関連品目や半導体を含む追加関税案が検討されている。商務省のダニエル・ラトニック長官は、iPhoneなどの電子機器が1~2か月以内に関税免除対象から外れる可能性を示唆しており、Appleを含む電子機器メーカーにとっては新たなコスト上昇リスクが現実味を帯びている。

特に、IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく20%の高関税が継続中であることから、Appleのサプライチェーン戦略に与える影響は極めて大きい。クオ氏は、Appleが関税回避のために免除措置を求める交渉を続ける可能性に言及しているが、同社が取り得る最も現実的な対応策は、インドでの生産を拡充し、米国向け出荷体制を根本から切り替えることだと指摘する。

ただし、この選択は品質管理や部材調達体制の見直しを伴い、一朝一夕で実現できるものではない。通商政策の変動が企業の生産計画に直結する現状は、グローバル企業にとって地政学的リスクの回避が成長戦略の中核に据えられていることを象徴している。

Source:Investing.com