トランプ前大統領による新関税政策がテクノロジー株を直撃する中、Salesforceの株価は4月3日に6%下落し、年初来で23.3%のマイナスを記録した。しかし同日、取締役オスカー・ムニョス氏が約100万ドル相当の自社株を取得したことにより、市場では反転の兆しと見る向きもある。
同社は、営業からAIに至るまでを統合するCustomer 360を軸に、デジタル労働市場へと踏み出している。最新決算ではAgentforceの急速な契約拡大やData Cloudの成長が報告され、将来の生産性拡大に対する期待が高まった。一方で成長鈍化の兆候や売上未達といったリスク要素も共存しており、株価255ドル前後という水準は割安とも割高とも言い難い。
アナリストはAIを中心とした新規事業領域に注目し、平均371.91ドルという強気な目標株価を提示しているが、依然としてマクロリスクが重くのしかかる状況である。今後の注目点は、AgentExchangeを通じたAI導入の収益化スピードと、経済環境に左右されない持続的成長力の実証である。
AI導入とパートナー戦略が生む新たな収益基盤

Salesforceは2024年10月以降、AIエージェント「Agentforce」によって大規模な契約拡大を実現し、すでに5,000件以上の取引のうち3,000件超が収益を生んでいる。加えて、AIマーケットプレイス「AgentExchange」を発表し、200社を超えるパートナーとの連携により、AIを軸としたエコシステム構築を推進している。これにより、クラウドとAIの融合を通じた業務効率化や生産性向上が加速しており、同社は60兆ドル市場とされるデジタル労働経済への参入を本格化させている。
AI関連サービスの成長性は、2025年度第4四半期決算におけるData Cloud部門の年間経常収益120%増という結果にも表れており、AIを核とした事業構造への転換が順調に進んでいると捉えられる。ただし、AI導入による中長期的な収益の安定化には時間を要する可能性もある。特に大手クラウド競合との技術的差異、実用性、企業の導入意欲など、多くの外部要因が業績への影響を左右するため、今後の決算推移と導入成果の開示内容には一層注目が集まる見通しである。
株価急落と内部者買いが投資判断に与える示唆
CRM株は2024年末以降不安定な値動きを続けており、貿易摩擦による市場動揺の中、2025年4月3日には一日で6%下落し、年初来で23.3%の下落幅に達した。しかしながら、同日に取締役オスカー・ムニョス氏が自社株3,882株を257.28ドルで購入したことは、経営陣の信認を示す象徴的な行動と受け止められている。約100万ドルの個人投資は、短期的な株価の底打ちシグナルとして市場心理を刺激した可能性がある。
市場価格は255ドル前後で推移しており、株価指標上は将来の調整後利益の30.3倍、売上高の6.47倍で評価されている。これは業界平均を上回る水準だが、過去5年の自社比で見ればやや割安との見方も存在する。ただし、テクノロジー株全般が政策リスクの影響を受けやすい環境下にある中で、今回のインサイダー買いが持つ実質的な意味合いは限定的となる可能性もある。外部要因を織り込みつつ、今後の業績進展と政策リスクの動向を並行して見極める必要がある。
アナリスト予測に見る期待値と足元の課題
Salesforceに対するアナリストの評価は「強い買い」が多数を占めており、46人中34人が最も高い格付けを与えている。目標株価の平均は371.91ドルで、現在水準から約45%の上昇余地があるとされている。中でもJefferiesのブレント・シル氏は375ドル、Truist Securitiesのテリー・ティルマン氏は400ドルをそれぞれ提示し、Data CloudとAgentforceの成長性を評価根拠として挙げている。最高値予測は440ドルに達し、市場の期待は依然として高水準にある。
一方で、第4四半期決算では売上が99.9億ドルにとどまり、アナリスト予想の100.4億ドルをわずかに下回った点や、未実現収益(RPO)の伸びが前四半期から鈍化した点には注意が必要である。成長加速の裏に見え隠れする鈍化の兆候は、過熱する期待とのギャップを生みかねない。投資判断においては、アナリストの楽観的見解に偏ることなく、実績データと将来見通しを冷静に照合し、持続的成長の根拠を慎重に検証する姿勢が求められる。
Source:Barchart.com