米国と中国間の貿易緊張が再燃し、AppleとNikeといった関税に敏感な企業の株価が年初来で20%超の下落を記録した。Appleは中国依存からの脱却を図り、インドへの製造移管を加速する一方で、Nikeはパンデミック期に進めた直販モデルが期待外れに終わり、競争激化の中で戦略の再構築を迫られている。
両社ともに収益成長の鈍化と構造的な課題を抱えつつも、自社株買いや配当継続など株主還元姿勢を崩しておらず、長期的なブランド価値に対する投資家の期待は根強い。ただし、関税政策の行方が依然不透明であり、短期的な投資判断には慎重な見極めが求められる局面にある。
Appleは供給網の再構築で関税リスクに対抗へ

Appleは、中国からインドへの製造移管を進めることで、地政学的リスクへの対応を強化している。2025年4月10日に報じられた通り、同社はすでにiPhoneの一部をインドから空輸する措置に踏み切っており、長期的には東南アジア全体への製造拠点の分散が視野に入っている。
中国製品に対する関税率が145%に引き上げられた影響は小さくなく、Appleの短期的な利益圧迫要因として機能している。これに対し、インドの製造基盤拡充は、コストと供給の安定を両立させる打開策といえる。
一方で、Appleの製品は高価格帯であるがゆえに、原価上昇分を価格転嫁できる可能性が高く、サービス事業の成長も下支えとなっている。Apple TV+やApple Musicに加え、金融サービスであるApple PayやApple Cardも含めたエコシステムの拡張は、同社の価格決定力を支える重要な要素である。
ただし、AI領域では競合に後れを取っており、新しい成長軸の明確化が求められる。今後の決算発表でサプライチェーン戦略の全体像が示されることが、市場の関心を集めている。
Nikeは事業モデルの転換に失敗し競争激化の波に直面
Nikeはパンデミック時に成功を収めた直販(DTC)戦略を強化したが、近年ではこのモデルが期待通りに機能せず、実店舗や卸売部門の方が収益性を示す逆転現象が起きている。卸売からの脱却が裏目に出た格好で、コスト構造の見直しが急務となっている。競合他社のAdidasやDeckers傘下のHokaの急伸も、Nikeの市場シェアを圧迫しており、ブランドとしての優位性にも影を落としている。
加えて、関税リスクがこれに追い打ちをかけ、既存の問題をさらに深刻化させている。Nikeの生産の95%は中国、ベトナム、インドネシアに集中しており、中国市場だけで売上の15.1%を占める。このため、貿易摩擦の激化は同社にとって重大な懸念材料である。
こうした状況下でもNikeは自社株買いや配当増配を継続しており、配当利回りは2.8%に達しているが、長期的な収益基盤の再構築が進まなければ、そのバリュエーションも維持が難しくなる。構造的改革と競争力回復の道筋が明示されるまでは、投資判断には慎重さが求められる。
割安水準の両社株に見える異なる投資リスクと期待値
AppleとNikeは、関税問題をきっかけに株価が大幅下落し、投資家にとっては割安に映る水準まで売り込まれている。特にAppleは収益の柱が多様であり、サプライチェーンの柔軟な対応力やサービス事業の拡大、継続的な自社株買いが堅調な株主還元を下支えしている。
一方で、Nikeはブランド力に加え、23年連続の配当増配という実績があるものの、構造的課題と競争激化によりリスクが高まっている。Appleは比較的安定した収益基盤を持ち、株価の下支え材料も多いことから、戦略の透明性が確認されれば、機を捉えた投資が報われる可能性がある。
対して、Nikeは大胆な戦略転換を迫られており、企業体質の再構築と外部環境の好転が重ならなければ、中長期での回復には時間を要するだろう。両社とも今後の決算において、現状への対応策と成長戦略の明示がなければ、下値不安は払拭されないままである。
Source:The Motley Fool