トランプ政権は国家安全保障を理由に、医薬品と半導体に関する輸入調査を通商拡大法232条に基づき開始した。今回の調査は今後の関税導入の布石とされ、通知は連邦官報に公示済みである。半導体関税については来週にも詳細が発表される見通しであり、台湾依存の現状を踏まえた供給網見直しが背景にある。

医薬品業界からは供給不足や価格転嫁の困難性を懸念する声が上がっており、特に利益率の低いジェネリック製薬企業は撤退を迫られる可能性も指摘される。米国市場の約半分を担うインド製造企業への関税は、国家安保と医療アクセスの両立という課題を一層複雑にする。

大手製薬企業は関税の段階的導入や国内移転への猶予を求めており、製造体制の再編には数年単位の準備期間が必要とされる。関税が即効的な国内回帰の策になり得るかは依然不透明である。

トランプ政権が進める医薬品関税 供給網と公衆衛生の緊張関係

トランプ政権は通商拡大法第232条に基づき、医薬品およびその原料の輸入に対する関税導入を視野に入れた調査を開始した。連邦官報への通知と21日間の意見公募期間の設定は、関税実施への明確な布石とみられる。調査対象にはジェネリック医薬品やバイオシミラーも含まれており、業界団体アクセシブル・メディスンズ協会のマーフィーCEOは「すでに逼迫する供給体制をさらに悪化させる」と警告した。医薬品の半数をインドから調達している米国市場では、インド企業への関税が投資減速を招くとの懸念も高まっている。

特に低利益構造にあるジェネリック医薬品企業は、コスト増加を価格に転嫁できず、市場撤退を余儀なくされるリスクを抱える。関税による影響は価格という表面的な問題にとどまらず、根幹である患者アクセスに直結する。ブランド医薬品企業においても関税コストを吸収する体力は限定的で、最終的には消費者負担増につながる懸念が拭えない。製薬業界が関税に反発するのは、短期的な損益ではなく中長期の医療供給網そのものに与える影響を見据えてのものである。

この構造的問題を解決するには、単なる関税措置ではなく、規制や報酬制度を含めた包括的な医薬品政策の再構築が不可欠といえる。医薬品の安全保障を訴えるのであれば、供給先の多角化と国内生産支援の整備こそが優先されるべきである。

半導体関税の布石と台湾依存リスクへの対処方針

トランプ氏は半導体に対する関税方針を明示し、来週中にも税率を公表すると表明した。これに先立ち、医薬品と同様に232条による国家安全保障を根拠とした調査が開始されており、台湾からの輸入に大きく依存する現在のサプライチェーンを見直す動きが鮮明になっている。バイデン政権下で成立した「CHIPS法」では数十億ドルが投じられたが、国内半導体生産体制の構築には時間と資源が必要であり、今回の関税措置が短期的な供給不安を煽る可能性がある。

一方でトランプ氏は、企業ごとに柔軟な関税対応を検討する姿勢も見せており、影響度や国内移転の進捗を踏まえた差別的課税が導入される可能性も否定できない。半導体はあらゆる産業の根幹を成す戦略物資であり、単なる通商上の武器ではなく、安全保障政策の一環として位置づけられている。特に軍需やAI技術の分野では、サプライチェーンの安定性が国家競争力そのものを左右しかねない。

ただし、拙速な関税導入は、製造業全体のコスト構造に波及する副作用をもたらす。関税で国内回帰を促す一方、価格上昇と技術投資の停滞を招けば、本末転倒となる懸念もある。政策実行においては、需給動向と企業体力を見極めた緻密な対応が求められる。

製造拠点の移管と長期的視点の政策設計

医薬品・半導体のいずれにおいても、トランプ政権が目指す「国内回帰」は一朝一夕では実現し得ない。大手製薬企業は米国、欧州、アジアにまたがる製造体制を持ち、単に関税を設けたとしても即座に米国内に製造を移すことは不可能である。関係者の証言によれば、移管には数年を要する見通しであり、投資余力や規制環境の整備なしには進展が見込めない。

アクセシブル・メディスンズ協会のマーフィー氏は「関税では製造移転は促進できない」と明言し、現実的な政策の再設計を促している。トランプ政権としても、国内製造への移行を本気で進めるのであれば、単なる負担増ではなく、企業が再編に踏み切れる支援措置の整備が求められる。税制優遇、補助金、規制緩和などが制度的に裏打ちされなければ、供給断絶やコスト高騰という副作用が顕在化する危険性がある。

中でも注目すべきは、関税が導入された場合の「段階的適用」である。政権と業界の交渉は、関税による即時打撃を緩和し、移行期間を確保するための妥協点を模索する局面に入っている。政策の成否は、短期的なインパクトよりも、中長期的な制度設計とその運用の巧拙にかかっている。米国が真に供給網の自立を目指すのであれば、「課税」ではなく「構築」への視点の転換が不可欠である。

Source:CNN