米国の金融評論家ハリー・デント氏は、2025年夏までにS&P500およびNASDAQ100が最大50%下落するという重大な暴落シナリオを提唱している。彼はこの調整を一時的な反発とは見なさず、長期にわたる下落トレンドの起点と位置付けており、最終的には主要株価が高値から80〜90%の水準まで崩れる可能性にも言及している。その背景として、量的緩和政策と過剰債務によって本来起こるべき調整が先送りされた結果、極めて歪な資産バブルが形成されたとの分析を示す。

一方、現在の景気拡大は自由市場資本主義の本来の循環から逸脱しており、健全な調整機能を欠いていると指摘。長期金利と米国債に資金を逃避させることが最も保守的かつ合理的な対応策とし、2008年の事例を引き合いに、他の資産が崩れる局面で米国債だけが堅調であった事実を再評価している。過去16年にわたって本格的な景気後退が欠如していた現状を踏まえれば、今後数年間にわたる本質的な整理過程の始まりとして警戒を要する局面に入ったとみるのが妥当である。

市場クラッシュ警告の根拠と過去サイクルとの比較

ハリー・デント氏が警鐘を鳴らす株価暴落のシナリオは、単なる短期的な調整を超えた構造的リスクへの警戒に基づいている。氏によれば、今回の下落局面は1929年や2000年といった歴史的な崩壊と同様に、数年にわたる長期的な下落となる可能性を孕んでおり、2025年夏までにS&P500が40%、NASDAQ100およびETFであるQQQが50%下落するとの具体的予測を示している。この予測は、近年の量的緩和政策が市場の自律的調整を不自然に先延ばしにしたとの認識に基づくものである。

また、2008年の金融危機やドットコムバブルの際のように、短期的な反発が投資家心理を一時的に支えるが、それが長期的な下落トレンドの入り口である可能性もあると指摘されている。デント氏は、好景気と不況のサイクルは市場の健全性を保つために必要不可欠と考え、過去16年間にわたり実質的な景気後退がなかった現状を異常と捉えている。このような背景を踏まえると、現在の市場は従来型の調整とは異なる段階に入っている可能性があり、反発局面での安易な買いは中長期的なリスクを高めかねない。

一方で、こうした見解が実現するかは市場参加者のリスク許容度や中央銀行の対応によって左右されるため、予測を鵜呑みにすることは危険である。ただし、量的緩和によって形成されたバブル的要素が否定できない現状において、歴史的前例と照らした慎重な判断が求められる局面にあることは確かである。

 債券シフトとキャッシュ化戦略の重要性

デント氏は、差し迫る暴落局面において最も堅実な戦略として、株式を現金化し、もしくは米国債に資金を移すことを強く推奨している。彼の主張によれば、現在のような不確実性が高い市場においては、短期的な価格変動に乗じた投機よりも、資本保全を優先したポジション構築が求められる。特に、2008年のリーマン・ショック時に他の資産が軒並み下落したなかで米国債が唯一上昇を維持したことを引き合いに、今回も類似のパターンが生じる可能性があると警告している。

加えて、デント氏は債券市場の反応が株式市場よりも遅れる傾向にあることを指摘しつつも、最終的には明確な勝者となることが多いと述べている。この見解は、債券の利回りがインフレ圧力や景気後退懸念といった要因によって相対的に優位となる局面では特に説得力を持つ。彼は、現時点では安全資産への資金移動が合理的であり、それによって長期的なリスクヘッジを図ることが可能とする。

一方、現金保有についても一定の意義を認めているが、現金は実質金利やインフレによる目減りのリスクが避けられないため、より確実性が高いとされる米国債が中長期的な選択肢として浮上する。過去の市場サイクルの中でも、資本の一極集中が崩れた際に堅実な債券戦略が奏功した事例は多く、今回の局面でも同様のリスク回避が有効とみる慎重な構えが必要である。

人工的経済回復の限界と市場の歪み

デント氏が最も強調したのは、リーマン・ショック以降の景気回復が「実体経済に根差したものではなかった」という点である。彼は、長期的な景気循環の中で本来不可避であったはずの景気後退が、中央銀行の政策介入によって人工的に抑制されたと分析している。特に、過剰な金融緩和策とゼロ金利政策が継続されたことで、企業の実力以上に株価が上昇し、資産価格のバブルを招いたとする指摘は、金融政策の信頼性に対する根本的な疑義を突いている。

また、COVID-19による景気後退は、数週間程度の短期的な調整に過ぎず、本質的な景気循環の正常化とは言えなかったと断じている。このような見方は、経済の歪みを修正する機能を欠いたまま拡大を続けた市場に対し、根本的な構造的再評価が不可欠であることを示唆している。

過去のように消費主導の経済成長が担保されていた時代とは異なり、現在は人口動態や所得分配、家計の信用力といったファンダメンタルズが追随していない点も、脆弱性の一因とされている。

このように、経済が自由市場として機能するためには、自然な調整過程を通じた健全な淘汰が必要であるにもかかわらず、それが抑制され続けた結果として、現在のような臨界点が形成されたと捉えることができる。従って、近年の市場形成過程を改めて点検し、政策依存からの脱却と市場原理の回復が急務であるとの見方が一部で広がりつつある。

Source: Finbold