Cohereは、新たな埋め込みモデル「Embed 4」を発表し、検索可能な文脈ウィンドウを128,000トークンに拡張、最大200ページ分の文書に対応する機能を実現した。マルチモーダル対応やVPC・オンプレミス導入が可能な設計により、医療や金融、製造など規制の厳しい産業に適した高精度AIインフラとして注目されている。
従来の前処理作業を大幅に削減することで、検索不能な非構造データからも効率的に洞察を引き出す仕組みを構築し、スキャン画像や手書き文書にも対応。Embed 4は企業が抱える情報処理と検索精度の課題を一挙に解決する可能性を秘めており、生成AIを基盤とするエージェント型AIの普及を加速させる展開が期待される。
企業文書処理を一新するEmbed 4の技術的特性と導入効果

Cohereが発表した最新モデル「Embed 4」は、従来の埋め込みモデルの限界を大きく超え、128,000トークンに及ぶ長文文書に対応可能な文脈ウィンドウを備えている。これは約200ページ相当の非構造データを一括処理できる能力に匹敵し、特に複雑な規制文書やノイズの多い資料を扱う分野にとって、画期的な改善とされる。前バージョン「Embed 3」のマルチモーダル機能を引き継ぎつつ、手書き文書やスキャン画像など従来検索が困難であった情報源に対しても高精度の対応が可能となった。
また、仮想プライベートクラウド(VPC)やオンプレミス環境への柔軟な導入が可能である点も、金融・医療・製造などセキュリティ要件の厳しい業界における活用を後押ししている。Cohereによれば、Embed 4は法律文書、保険請求書、製品マニュアルといった多種多様な文書形式に対応可能であり、複雑な前処理プロセスを不要にすることで、企業の情報活用効率を根本から向上させることができる。
こうした技術的進展は、単なる検索精度の向上にとどまらず、データ資産全体の有効活用と業務フローの簡素化という観点からも企業にとっての重要性を増している。業界横断的に求められていた“検索不能な情報”へのアクセスという課題に対し、Embed 4は実務に即した具体的な解決策を提示している。
高度化するAIエージェント活用とRAG戦略におけるEmbed 4の役割
RAG(Retrieval-Augmented Generation)戦略の中核を担うEmbed 4は、検索・生成AIを活用する企業にとって、実用的なエージェントAIの構築を可能とする技術的基盤となりつつある。文書や製品情報をベクトル空間に変換するembedding機能により、AIが情報を直接参照して高度な応答を行う構造が確立されつつある。Cohereが提唱するこのモデルは、単なる検索の高速化にとどまらず、検索対象の精度を高め、幻覚(hallucination)を抑制するという点でも重要な意味を持つ。
実際にCohereの顧客であるAgoraでは、Eコマースにおける複雑なマルチモーダル製品データの検索エンジンとしてEmbed 4を導入し、画像とテキストを統合した情報検索により、関連性の高い製品を正確に提示できるようになったと報告されている。このような事例は、Embed 4が実務レベルでのパフォーマンス向上に寄与することを具体的に示している。
エージェントAIの進展に伴い、従来型の検索エンジンでは対応困難であった問いにも文脈を理解した上で回答できる能力が求められている。Embed 4が提供する圧縮表現による低コストなストレージ運用も相まって、RAGを前提としたAIエージェント構築がより現実的な選択肢となっている。こうした動きは、単なる技術革新にとどまらず、情報検索の在り方そのものを変革しつつある段階にある。
Source: VentureBeat