TED 2025の最終日、OpenAIのサム・アルトマンCEOは、週次アクティブユーザーが8億人を超えるChatGPTの爆発的成長を語るとともに、GPUの供給不足やインフラ限界といった現実的課題を明かした。インタビューでは、3,000億ドルに到達した企業評価や、非営利から利益追求へと変貌した組織戦略に対する倫理的批判にも言及。加えて、アーティストへの報酬分配、自律型エージェントAIの安全性、コンテンツ規制の緩和方針といった論点が浮き彫りとなり、生成AIの進化と社会的責任のはざまで揺れるOpenAIの現在地が明確となった。
アルトマンはAGIの定義の不統一や今後の技術進化の不確実性にも言及し、AIがもたらす未来像には楽観と懸念が混在している。倫理、権力、公共性をめぐる緊張の中で、OpenAIが示す方針と判断は、世界中の人々の生活様式や価値観そのものを左右する可能性がある。
TEDで語られた3,000億ドル企業の舞台裏と技術的限界

サム・アルトマンは、TED 2025のステージ上でOpenAIが抱えるインフラ上の制約と圧倒的成長を明かし、ChatGPTが8億人の週次アクティブユーザーを記録していることを報告した。これにより、人気の画像生成機能によってGPUが物理的限界に達し、社内では「GPUが溶けている」と形容される事態が続いていると述べた。同時に、OpenAIは推定3,000億ドルの評価額に達し、400億ドルの資金調達を完了した。これは未公開企業として過去最大級の調達規模であり、今後の事業インフラ強化にも寄与する可能性がある。
このような成長の裏には、人員の疲弊やストレスの増大といった副作用も伴っている。さらに、イーロン・マスクが批判する「非営利から営利への転換」について、アルトマンは「現実を学び取った結果」と説明し、長期的目標の達成のためには戦略の変化も必要であると述べた。利益追求型への転換が技術開発の速度と持続性を担保する側面がある一方で、開発者の倫理観と透明性に対する要求は今後さらに高まると見られる。3,000億ドル規模の技術企業である以上、社会的責任の範囲も同様に拡大しつつある。
自律型エージェントとAGIに潜む構造的リスク
TEDセッションの中で最も緊迫した場面は、OpenAIの「Operator」などに代表される自律型AIエージェントのリスクに関する議論であった。レストラン予約などをAIが代行する機能は利便性をもたらす一方、責任の所在や予期せぬ動作による損害といった問題が浮上している。アルトマンは「準備フレームワークがある」と述べたものの、具体的な安全策や制御機構についての説明は控えた。銀行口座へのアクセスや個人データの操作がAIの手に委ねられる現実において、セキュリティ対策の不透明さは極めて重大な問題となり得る。
さらに、AGI(汎用人工知能)の定義に関しても組織内での合意がないことが明らかになった。アルトマンは「10人いれば14通りの定義がある」と語り、AGIが明確な閾値を持たない連続的な進化であると説明した。この不確実性が、安全対策や倫理的枠組みの設計を一層困難にしている。エージェントAIとAGIという2つの領域において、強力な機能の開発と制御不能リスクの均衡が、OpenAIに課せられた最大の試練であることが浮き彫りとなった。
生成AIと社会的合意:報酬分配とガードレール緩和の含意
アルトマンは、AIによって模倣されるアートスタイルに対し、アーティストへ報酬を支払うモデルの導入を検討していると語った。これは生成AIが芸術領域へ深く浸透する中で、知的財産権と収益構造の再定義を迫る動きとして注目される。現時点では、OpenAIの画像生成AIは存命中のアーティストのスタイル模倣を制限しているが、今後、合意のもとでの利用と収益分配の制度化が進む可能性がある。アルトマンは「7人のアーティストが同意した場合、収益をどう分配するかが課題」と述べ、ビジネスモデル転換の必要性を示唆した。
また、OpenAIは画像生成モデルにおける規制を緩和する方針を打ち出し、「従来は有害とされた表現も、より多くの自由を与えている」と明言した。この変化は、少数の専門家ではなく世界中のユーザーの集合的価値観を重視する考え方に基づいている。これは表現の自由を拡張する一方で、社会的対立の火種ともなり得る。AIが社会全体の価値観を学び取りながら進化するのであれば、規制と自由の境界は今後も揺れ動き続けることが予想される。技術の拡張が公共空間へ及ぼす影響について、より広範な議論が求められる段階にある。
Source: VentureBeat