Appleが2030年までに温室効果ガス排出量を75%削減する計画の中間報告として、既に約60%の削減を達成したと発表した。製造、販売、ユーザー利用に至るまでの排出を含む取り組みの中で、特にMac miniなどの電子機器に大きな炭素負荷を与える半導体への対策が注目される。

26の半導体サプライヤーがApple製品向けにフッ素系温室効果ガスを90%以上削減することを約束し、強力な温暖化効果を持つヘキサフルオロエタンなどの排出抑制に踏み込んでいる。また、Appleは顧客の使用電力に対しても再生可能エネルギーを提供するなど、サプライチェーン外の排出対策でも主導権を握りつつある。

同様の取り組みを進めるMicrosoftやAmazonとの差異は、Appleが自然由来の手法を短期的な最適解と見なす点に表れており、テクノロジー企業各社の環境戦略の違いが浮き彫りになっている。

スコープ3排出への挑戦 Appleがサプライチェーン全体で進める構造転換

Appleは自社の直接的な炭素排出にとどまらず、サプライヤーやユーザーによるエネルギー使用まで含む「スコープ3」の温室効果ガス削減に力を注いでいる。とりわけ注目すべきは、16GB RAMと256GBストレージのMac miniであっても生涯で32kgの炭素を排出し、上位構成では121kgにまで跳ね上がるという事実である。

これは搭載される半導体の規模と構成が、製品の炭素フットプリントを大きく左右することを意味する。Appleはこれに対し、26社の半導体サプライヤーと連携し、Apple製品向け施設で使用されるフッ素系温室効果ガス(F-GHG)の90%以上を削減する誓約を取り付けた。

F-GHGはチップ製造に不可欠なプロセスガスであり、なかでもヘキサフルオロエタンのような化合物は、同量の二酸化炭素と比較して最大で9,200倍もの温暖化効果を持つ。製造現場における排出削減は、Apple製品のライフサイクル全体の環境負荷軽減に直結する。

この取り組みは、単なる技術の置き換えに留まらない。温室効果ガスの高濃度地域で生産を続ける限り、製品の脱炭素は進まない。Appleは地球規模でのサプライチェーン再構築を進めつつあり、こうした動きは今後、他のグローバル企業に対しても変革を迫る圧力となり得る。

顧客の排出にも責任を負う姿勢 再エネ提供の戦略的意義

Appleは、Apple Watch Series 9の販売時に、顧客の使用電力に対応する再生可能エネルギーの購入を開始し、1年後にはMac mini購入者にも同様の方策を適用した。これにより、ユーザーによる電力消費に起因する炭素排出、すなわちスコープ3排出の一部を実質的に抑制している。

Appleがユーザーの行動まで視野に入れたカーボンマネジメントを行う点は、従来の企業の環境戦略とは一線を画す。これは、単なる環境配慮という枠組みを超えて、ブランドの中長期的な価値創出戦略の一環と見るべきである。消費者の環境意識が高まる中、企業が提供する製品の背後にある電力や素材の出所は、購買選択における新たな決定要因となりつつある。

Appleの再エネ提供策は、その信頼性と透明性を高め、顧客ロイヤルティの形成にも寄与している。さらに、Appleが再生可能エネルギーの調達という“間接的インフラ提供”に踏み出した意義は大きい。再エネ市場に対しても一定の需要刺激となる上、他の業界における脱炭素支援のロールモデルにもなり得る。

ユーザー責任を企業が一部引き受けるという発想は、今後のカーボンニュートラル政策において、官民の連携モデルとしても注目される可能性がある。

Source:TechCrunch