ドナルド・トランプ前大統領が中国製電子機器への関税を一時的に免除した決定により、Apple株は2%以上反発した。iPhoneの約9割を中国で生産するAppleにとって、この関税措置が継続されれば実効税率145%に及ぶリスクを伴っており、サプライチェーンの混乱と需要減退が懸念されていた。今回の緩和は、Appleにとって極めてタイムリーな支援となった。

一方で、関税免除は暫定的措置であり、将来的な再課税の可能性は残されている。Appleの株価は既に再び200ドルを下回る水準にあるが、第1四半期には過去最高の売上高1,243億ドル、純利益363億ドルを記録し、サービス部門やMac、iPadの堅調な成長が業績を支えている。アナリストの見解は分かれるものの、AI技術強化や米国内投資の本格化など、長期的な収益基盤への期待は依然として強い。

目先の関税動向に左右される不安定な市場環境の中、投資家にとって重要なのはAppleの構造的優位性と収益の持続可能性をどのように見極めるかにある。関税緩和による一時的な株価上昇を受けて、今が買い時とする判断には慎重さも求められる局面である。

一時的な関税回避がもたらしたApple株の短期的反発と長期的課題

ドナルド・トランプ前大統領による中国製電子機器への新たな関税の一時免除は、Appleにとって戦略的な猶予期間となった。特に、同社のiPhoneの約90%が中国で組み立てられていることを踏まえれば、関税発動は供給網全体に大きな打撃を与える可能性があった。

実効税率145%という水準は、価格競争力の喪失や需要の冷え込みに直結するため、Appleにとっては看過できないリスクであった。このニュースを受けてApple株は2%以上反発し、短期的には市場に安心感を与えたが、これはあくまで暫定的な免除であり、電子機器には依然20%の関税が課されている点も見逃せない。

加えて、4月初旬には同社株価が関税への懸念から1週間で25%以上下落しており、地政学的リスクに対する脆弱性が改めて露呈した格好となった。こうした状況の中で発表された免除措置は、Appleにとって一時的な救済策に過ぎない。現時点では株価は再び200ドルを下回っており、短期的反発が中長期の成長軌道に回帰する保証はない。事実、ホワイトハウスはさらなる関税強化の可能性を示唆しており、抜本的なリスク解消には至っていない。

市場はこの免除をポジティブに捉える一方で、貿易戦争の先行きに対する警戒感は依然として色濃く残る。Apple株が今後持続的に上昇するには、政治的な安定と供給網の柔軟性の確保が不可欠である。投資判断は、この短期的安心感の裏にある構造的リスクをどう評価するかにかかっている。

業績堅調を支えるAppleのエコシステム戦略とAIへの布石

Appleは2025年の第1四半期において、売上高1,243億ドル、純利益363億ドルといずれも過去最高を更新し、1株当たり利益も2.40ドルと記録的な数値を示した。iPhone売上がわずかに減少したにもかかわらず、MacやiPad、そしてサービス部門の成長が全体をけん引した。

これは、Appleが単なるハードウェア企業ではなく、強固なエコシステムを中核に据えたビジネスモデルへと移行しつつあることを如実に示している。製品間の連携性やブランドロイヤルティが高く、ユーザーがAppleの製品群から離れにくい構造が収益の安定性を支えている。

また、Appleは今後4年間で米国に5,000億ドルを投資する方針を掲げており、これはAIを含む先端技術分野での国内生産体制強化を意味する。テキサス州での新工場建設や、ミシガン州のトレーニングアカデミー設立などが計画されており、米国内での雇用創出と同時に地政学リスクの緩和にもつながる可能性がある。さらに、次世代iPhoneやMacにはAI機能の大幅な強化が図られる予定であり、今後の競争優位性の源泉となることが見込まれる。

AppleのPERは28.12倍と業界平均を大きく上回るが、これはブランド価値と将来の収益性への市場の高い信頼感を反映している。金利や政治リスクといった外的要因に左右される局面においても、Appleの構造的強みと技術的進化の持続性が、株価の下支えとなる蓋然性は高い。

アナリスト評価に見るApple株の成長余地と潜在的な下振れリスク

36名のアナリストによるAppleの平均目標株価は243.18ドルであり、現在の株価からおよそ24%の上昇余地が見込まれている。評価の多くは「やや買い(Moderate Buy)」であり、業績の継続的な拡大とブランド力の維持がこの強気姿勢を支えている。2025年通期の1株当たり利益は7.22ドル、翌年には8.03ドルが見込まれ、年率11.2%の成長が予想されている。これは、サービス収益や米国内投資による構造転換が功を奏している結果といえる。

しかしながら、Needhamが指摘するように、中国市場でのポジション悪化や恒久的な関税導入が実現した場合には、2025年の利益が最大28%減少するリスクも指摘されている。加えて、UBSのDavid Vogt氏は、AppleのAI機能が即時的な業績押し上げには至らないと慎重な見方を示しており、期待先行の側面が否めない部分もある。

今後のApple株の行方は、政治情勢の変化とAI戦略の実装進度という二つの軸に左右されることになるだろう。短期的には関税免除や業績の強さが株価を下支えするものの、中長期的には新技術の浸透度と中国リスクの顕在化がリターンを左右する重要な要因となる。市場の期待と現実の狭間で、Appleは再び試される局面に差し掛かっている。

Source:Barchart