トランプ政権が推進する反多様性政策の影響を受け、米国の主要テクノロジー企業においてDEI(多様性・公平性・包括性)プログラムの見直しや削減が広がっている。Googleは採用目標や報告書からのDEI記述を削除し、MetaはDEIチームの解散に踏み切った。
Salesforce、Tesla、Uberなども同様に報告書上の記述を削除する一方、AppleやIBM、Nvidiaは継続的な取り組みを表明している。法的リスクや政治的圧力に直面しながら、企業は従来の方針維持と戦略的後退の岐路に立たされている。特にAmazonやMicrosoftのような巨大企業においても方針変更が進行しており、企業文化や人材政策への波及は避けられないとみられる。
主要テック企業におけるDEI方針の後退と継続の分岐

米国のテクノロジー業界では、トランプ政権の反DEI政策の影響を受け、多くの企業が多様性・公平性・包括性に関する方針を見直している。GoogleはDEI関連の助成金情報やAI倫理ページから該当文言を削除し、最新の10-K報告書ではDEIに一切触れていない。MetaはDEIチームを解体し、目標の取り下げを進めた。TeslaやSalesforceも10-Kから関連表現を削除し、実質的な後退姿勢を取っている。
一方、AppleやIBM、Nvidiaは引き続きDEIの重要性を強調し、公式サイトや報告書内での表記を継続している。特にNvidiaは2024年のサステナビリティレポートにおいて、「人材・多様性・包括」を企業価値の中核と明示しており、継続的な施策の継承を印象づけている。これに対し、OpenAIはページタイトルを「ダイナミックなチーム作り」に差し替え、従来のDEI記述を完全に削除した。
企業ごとの温度差は、法的リスクと株主圧力、さらには政権との距離感によって生じている。保守層からのDEI反発が高まる中でも、企業が価値観として多様性を保持し続けるには、取締役会レベルの強い意思と、長期的なブランド戦略の整合が求められる。現状の変化は一過性の政治対応である可能性もあり、2025年以降の中期的な企業姿勢が今後の焦点となる。
司法・政治圧力下のDEI政策と企業の対応メカニズム
2025年、トランプ政権下の司法長官パム・ボンディは、DEIを違法と見なす方針を表明し、連邦補助金を受ける企業に対し厳格な調査・排除・処罰の対象とするよう指示した。この政府の攻勢は、PBSのDEIオフィス閉鎖やNASAによる「環境正義」「女性支援」表現の削除など、公共機関にも波及している。こうした規制強化の動きが、民間企業の自己防衛的なDEI後退を招いている構図である。
フォードやウォルマート、アクセンチュア、ターゲット、ゴールドマン・サックスなどの大企業は、自社のポリシーや報告書からDEI関連記述を除外する一方で、違法リスクの回避を優先している。特にゴールドマン・サックスは、かつて取締役会に女性・有色人種を含めるという方針を掲げていたが、2025年2月にこれを正式に撤廃した。この動きは金融業界にも動揺を与えている。
ただし、IBMのように保守系シンクタンクによるDEI報酬廃止提案を拒否し、企業としての理念を堅持する姿勢も確認される。こうした対応の違いは、単なる政治的動向への反応ではなく、企業文化や人材戦略に対する長期的ビジョンの差異に起因している。政権交代の可能性を見越した柔軟な対応か、それとも価値観に基づく一貫性の維持か、企業にとって今がその岐路である。
ブランド維持と組織文化に揺らぐ人材戦略の未来
DEI撤退が進行する中、企業にとって最大のリスクは、外部からの批判よりも内部の組織文化の混乱にある。特にZoomのようにレイオフに伴いDEIチームを解雇し、社内のインクルージョン施策を外部コンサルタントに委託する例では、従業員の信頼と一体感の喪失が懸念される。UnitedHealth GroupやYahooもDEI関連ページの大半を削除しており、情報の不透明化が内部不安を助長する要因となりうる。
さらに、DEIの撤退が企業の対外的イメージに与える影響も無視できない。特に若年層を中心に、職場の多様性を重視する人材が増加する中で、これらの施策の変化は優秀人材の確保に支障をきたす可能性がある。MediumのようにCEOが「理解と尊重」を前面に掲げる企業姿勢は、逆に従業員のロイヤルティを強化する効果を持つ。
企業価値にDEIを組み込むか否かは、単なる法的リスク対応を超えた戦略的判断である。長期的に見れば、社会変化に適応した柔軟性こそがブランドの持続性を支える柱となる。今後、短期的な政治状況の変化に迎合するだけでなく、企業がいかに自社の理念に基づく軸を保持するかが注視されるべき点である。
Source:TechCrunch