暗号通貨ビットコインが依拠する楕円曲線暗号(ECC)に対し、量子コンピュータによる突破実験が本格化している。研究団体「Project 11」は2026年4月までに、ECCの簡略化バージョンを量子技術で破ったチームに1 BTCの賞金を授与すると発表。対象はわずか1~25ビットの試験鍵であるが、量子暗号復号の実用化が近づく兆候として注目される。
この動きは、将来の「Q-Day」、すなわち量子コンピュータによる本格的な暗号解読が現実となるリスクへの備えの一環でもある。既に開発者らは、量子耐性アドレスへの移行提案や新たなセキュリティ技術の導入を進めており、暗号資産全体が変革を迫られる可能性がある。
Project 11が提示する1BTC賞金 量子コンピュータによるECC解読の現実性を検証へ

Project 11は2025年4月16日、量子コンピュータでビットコインの楕円曲線暗号(ECC)の簡易版を解読したチームに対し、1 BTCの賞金を与える「Q-Day賞」を発表した。これは6百万BTC、金額換算で5,000億ドルを保護対象とする暗号資産の根幹に対し、量子コンピュータがどれほど脅威となり得るかを実地で試す試みである。対象となるのは1〜25ビットの簡略化されたECC鍵であり、現在主流の256ビット暗号と比べれば技術的ハードルは低いが、それでも量子アルゴリズムの実行性能を検証するには十分な規模といえる。
この取り組みは、量子計算機が暗号資産システムに与える実質的リスクの可視化を意図したものだ。特にProject 11の共同創設者であるアレックス・プルーデン氏は、「既に公開鍵のあるアドレスに対しては莫大なインセンティブが存在している」とX上で発言しており、セキュリティの脆弱性が攻撃対象となる現実的な脅威として認識されている。現段階では完全なECC解読は遠いとされているが、量子技術の進展に備え、仮想通貨業界が早期に備える姿勢を見せていることは注目に値する。
開発者による量子耐性プロトコルへの対応提案とその課題
ビットコイン開発者の間では、量子計算機による暗号解読が現実味を帯びる中、抜本的なセキュリティ強化策が検討されている。その一例が、チリの技術者アグスティン・クルスが提案した「量子耐性アドレス移行プロトコル(QAMP)」の導入である。これは、既存のアドレスを量子耐性の新形式へと強制的に移行させることを目的としており、仮にECCが突破された場合でもユーザー資産を保護する手段となる。ただし、既存ネットワークとの互換性やアドレス移行時の混乱、鍵管理の問題など、実装に際しては多くの課題を伴う。
また、SolanaやEthereumのような他のブロックチェーンでは、2025年初頭から量子攻撃を想定したセキュリティ構造の導入が始まっている。Solanaは「Winternitz Vault」と呼ばれるハッシュベースの署名方式を導入し、Ethereumも共同創設者ヴィタリック・ブテリンによって量子耐性を見据えたハードフォークが提案された。いずれも鍵の一時使用や継続的更新を軸とする方式であり、これらの動向はビットコイン側の対応においても重要な比較対象となる。セキュリティを維持しつつ互換性や運用効率をどう確保するかが、今後の大きな焦点となろう。
Source:Decrypt