米国によるNvidia H20の対中輸出禁止が発効された翌日、Huaweiは新たなAIチップ「Ascend 920」を電撃発表した。6nmプロセスとHBM3による高帯域を特徴とし、同社はNvidia不在の空白を埋める製品と位置づけている。専門家は、このタイミングと仕様が中国国内の需要を捉えた巧妙な動きであると分析する。
NvidiaのH20は米政府の輸出規制により中国市場から排除され、これにより同社は約55億ドルの減損を迫られる見通しとなった。Huaweiはこれを見越してAscend 920の開発を進めており、性能や用途面で既存製品の限界を超える可能性がある。さらに、AIソリューション「CloudMatrix 384」の同時発表も重なり、中国による自給自足志向の加速を象徴する展開となった。
米中の半導体対立が生んだ隙間市場にHuaweiが参入

HuaweiのAscend 920の発表は、NvidiaのH20が米国政府によって中国市場から排除された直後に行われた。H20はNvidia製AIチップの中でも比較的制限された性能でありながら、中国国内では依然高い需要を誇っていた製品である。特に、これまで四半期ごとに売上が50%増加していたことからも、市場規模の大きさがうかがえる。Huaweiはこの空白に即応し、Ascend 920を同社の主力製品として位置づける構えを見せた。
DigiTimes Asiaによると、Ascend 920は2025年後半より量産予定で、性能面では1枚あたり900TFLOPS超、メモリ帯域幅は4TB/sを実現する見込みである。6nmプロセスに加えHBM3を採用し、従来モデルを大きく上回る構成が示唆されている。また、同時発表されたラックスケールAIソリューション「CloudMatrix 384」も、データセンター用途を念頭に置いた設計とされ、NvidiaのGB200に匹敵する性能を誇るが、消費電力はやや高めと伝えられる。
今回の発表タイミングが偶然であったとは考えにくい。Huaweiは米国の輸出管理政策を見越して、H20の供給停止による市場需要の変動に対応する準備を進めていた可能性がある。こうした先読みの動きは、中国半導体産業が直面する制裁下での機会の捉え方を象徴している。
Ascend 920の技術構成と市場影響
Ascend 920は現行のAscend 910Cの進化形とされ、推論性能においてNvidia H100の60%を実現していた従来モデルを超えることが期待される。特に注目されるのは、「920C」バリアントの存在である。TransformerやMixture of Expertsといった大型AIモデルに最適化された構成で、効率は既存比で30~40%向上すると報じられている。中国国内のAI市場では、こうした専用設計の製品群が急速に存在感を強めている。
加えて、Huaweiは単なるチップ開発だけに留まらず、インフラレベルでの展開も進めている。「CloudMatrix 384」は、データセンター用途に特化した高密度AIソリューションであり、GB200を上回る性能を発揮し得ると見られている。これは単なる性能競争ではなく、AIクラウド市場における地政学的主導権の再配分にもつながり得る展開である。
とはいえ、Ascend 920がNvidia H20の完全な代替となるかは未知数である。AI開発の現場ではソフトウェアエコシステムや長年にわたるチューニング実績が重要視されるため、単純な性能比較だけでは市場シェアの獲得は困難である可能性もある。それでも、供給が断たれた今、Huaweiが新たな選択肢を提供すること自体が、地域市場における再編の起点となり得る。
Source: Tom’s Hardware