2025年3月時点で市場シェア54.2%を維持するWindows 10に対し、マイクロソフトはTPM 2.0対応PCへの移行を改めて促している。TPM 2.0はWindows 11の必須要件のひとつであり、旧型PCの多くがこれに対応していないことがアップグレードの障壁となっている。同社はこの要件の意義を強調する公式ブログを新たに公開し、データ保護やファームウェア整合性の向上などセキュリティ面での利点を説明している。
一方で、マイクロソフトは過去に提供していたTPM回避策のガイドを削除し、ユーザーによる非公式なアップグレードの道を事実上封じた。Windows 10のサポート終了が迫る中で、こうした情報発信は旧環境の継続利用を断念させる意図も透けて見える。
TPM 2.0の本質とMicrosoftが語る“安全性向上”の狙い

TPM 2.0はTrusted Platform Moduleの第2世代仕様であり、Windows 11においてはセキュリティの中核を担う存在とされる。Microsoftが公開した最新のブログ記事では、このTPM 2.0がもたらす利点として「データの暗号化精度の向上」「ファームウェアとOSの整合性確保」「標的型攻撃への耐性強化」が明確に挙げられている。特にBitLockerやWindows Helloといったセキュリティ機能の高度な連携を可能にする点は、従来の環境との差を際立たせる。
Microsoftはこの説明を通じて、TPM 2.0が単なる技術的な要件ではなく、ユーザーのプライバシー保護やサイバー脅威への対処力を実用的に引き上げるための鍵であることを強調している。ただし、その訴求が一部ユーザーにとって「旧型機を切り捨てる手段」にも映ることは否定できない。セキュリティと利便性、コスト負担の三者間でのバランスが問われている状況といえる。
Windows 10の圧倒的シェアが示すアップグレードへの慎重姿勢
Statcounterの最新データによれば、2025年3月時点でWindows 10は依然として世界のPC市場で54.2%という過半数のシェアを占めている。対するWindows 11は42.69%にとどまり、登場から3年近くが経過したにもかかわらず、普及ペースは緩やかだ。その背景にある最大の障壁が、TPM 2.0の要件である。多くのユーザーが既存のハードウェアでは対応できず、買い替えに踏み切れない実情がある。
この状況は、決してWindows 11の性能や機能に否定的な評価が下されているわけではなく、単純に物理的・経済的な障壁の存在を示している。TPM 2.0は高いセキュリティを約束する一方で、一定のスペックを求めるため、その要件が市場に二極化を生んでいると考えられる。アップグレードのタイミングを測るうえで、多くの利用者が依然として慎重な姿勢を貫いているのが実情である。
TPMバイパス手段の削除が示す方向性とその余波
Microsoftは過去に、公式サポートページにてTPM 2.0を回避してWindows 11をインストールする方法を案内していたが、現在ではそのガイドを削除している。これは、意図的に旧型PCでのインストールを困難にし、正規ルートでの環境移行を推進しようとする姿勢の表れと受け取れる。表向きには安全性の確保という名目ではあるものの、実質的には非対応デバイスの切り離しとハードウェア更新の誘導という側面も見え隠れする。
この方針は、ITスキルを持つ一部のユーザーにとっては自由度を奪う行為とも受け止められかねない。一方で、セキュリティの整合性と長期的なサポート性を重視すれば、メーカー側が制限を設けるのは理解できる面もある。TPM 2.0への一本化は、現代の脅威モデルに対応するために不可避とされるが、その過程で「選択肢の狭さ」に対する疑問も同時に浮かび上がっている。
Source:NotebookCheck