Western DigitalはMicrosoftと共に、役目を終えたデータセンター用HDDからレアアースを高純度で回収する新たなリサイクルプログラムを立ち上げた。この取り組みでは、従来シュレッダー処理されていたドライブをアメリカ国内で回収・選別し、酸を使わない独自の溶解プロセスで希少元素を抽出する。ジスプロシウムやネオジムなど、調達が困難になりつつある素材の再利用を可能にし、温室効果ガス排出量を95%削減する効果も確認された。
2022年時点で世界中に約7,000万台存在するとされるデータセンターのHDDが持つ潜在的価値を活かし、資源確保と環境負荷低減の両立を狙うこの試みは、テクノロジー分野における循環型社会への具体的な一歩といえる。
アメリカ国内で完結する資源循環プロセスが実現した理由

Western DigitalとMicrosoftが展開する新たなHDDリサイクルプログラムは、資源回収と環境負荷の削減を高いレベルで両立させる点が特徴である。Microsoftのデータセンターから役目を終えたドライブを回収し、PedalPoint Recyclingがそれをシュレッダー処理、分別された部材はCMRへと引き渡される。その後、Ames国立研究所発の溶解技術によって、酸を用いずに最大99.5%の純度でレアアース酸化物が抽出される。加えて、アルミニウムなどの他金属資源も高効率で再利用可能な状態で得られる。この一連の工程はすべて米国内で完結し、輸送時の二酸化炭素排出も最小限に抑えられている。
特に注目すべきは、ライフサイクル分析により、従来の採掘・精錬方法に比べて最大95%もの温室効果ガス排出が削減されると示された点である。これは単に資源を回収するだけでなく、テクノロジー業界全体の環境負荷の大幅な低減にもつながる取り組みといえる。今後、他のハイパースケール事業者との連携拡大が進めば、年間数千万台規模で廃棄されてきたドライブが、資源供給源として再定義される可能性もあるだろう。
廃棄HDDに眠るレアアースが供給リスクを緩和する
データセンターの運用において、ハードドライブの寿命は一般的に3〜5年とされる。2022年のデータによれば、全世界で稼働する約7,000万台のサーバーには、複数のHDDが搭載されていると考えられる。この規模のドライブが廃棄され続ける一方で、ジスプロシウムやネオジムといったレアアースの採掘は高コストかつ高排出であり、さらに中国による輸出規制が続く中、供給の不安定さは年々増している。
こうした状況下において、Western DigitalとMicrosoftのプログラムは、安定供給のための新たな突破口となり得る。再利用可能なレアアースをHDDから直接回収することで、国外依存の削減につながるほか、価格の変動リスクにもある程度対応できる。とりわけ、高純度の酸化物として再利用可能な形式で抽出できる点は、ただのスクラップ回収とは一線を画している。今後、これらの再資源化された素材が新たなIT機器やEVモーターなどに活用されれば、循環型資源供給の輪がさらに広がることになるだろう。
テクノロジー産業のサステナビリティ推進における新たな指標
Microsoftのクラウド・サステナビリティ担当VPであるチャック・グラハム氏は、このパイロットプログラムを「循環型サプライチェーンの実現に向けた重要な一歩」と語っている。単に企業活動の一部として行われるCSRの枠を超え、事業インフラそのものにサステナビリティを組み込む動きが加速している証左である。Western Digitalのホワイトペーパーでは、この取り組みが、埋立地行きだった21,000kg超の電子機器を別ルートに転用し、全体質量の80%、レアアースに至っては90%以上を回収したことが示されている。
リサイクルプロセスの拡張は、今後のデータセンター運用設計にも影響を与える可能性がある。資源の回収効率だけでなく、製品寿命終了後の処理方針までを含めたライフサイクル全体での環境対策が標準化すれば、各社の調達戦略や設計思想に変化をもたらすことも考えられる。テクノロジー産業が排出源から回収源へと視点を変える動きは、持続可能な社会の実現に向けたひとつのモデルケースとなるだろう。
Source:TechSpot