中国へのAIチップ輸出を巡る規制強化が、半導体市場全体に動揺をもたらしている。ブロードコム(AVGO)株は年初来で28.3%下落し、セクター全体を巻き込む調整局面の中心となった。一方で、同社の収益・利益成長率は業界平均を大幅に上回り、AI向け事業や光接続技術の強化を通じた中長期的な競争優位が評価されている。

直近四半期での収益増や強固なキャッシュフロー、AudiやCiscoとの戦略提携、VMware Cloudとの統合により、インフラ供給企業としての信頼性を着実に高めている。アナリスト31名中28名が「ストロングバイ」と評価し、目標株価は現在値から47%の上昇余地があるとの見解もある。ただし、この評価は地政学的リスクの長期化や米中対立の構造的影響を織り込んだものではない点に留意が必要である。

半導体市場に広がる地政学リスクとブロードコムの株価下落の構図

トランプ政権による対中輸出規制の強化は、AIチップに特化した企業群に直接的な打撃を与えた。Nvidia、AMD、Micronといった大手銘柄が軒並み下落したなか、ブロードコム(AVGO)も例外ではなく、年初来で28.3%の株価下落を記録した。半導体セクター全体を網羅するVanEck Semiconductor ETF(SMH)は、年初から22.5%の下落と、NASDAQ総合指数やS&P500を上回る下落率となり、業界全体の逆風を象徴している。

背景には、中国市場に対する販売規制が即座に収益見通しを圧迫するという市場の過敏な反応がある。AI関連製品に対する需要は依然強いものの、政策リスクの存在が評価を不安定にしている。中国との経済関係が深い企業ほど打撃が大きく、政治動向が株価形成に与える影響は年々増大している。市場参加者の間では、こうした規制リスクを価格に織り込む動きが強まっており、投資判断の基準にも変化が見られる。

今後も政権交代や政策変更によって半導体輸出の枠組みが揺れる可能性は否定できず、ブロードコムのようなグローバル依存型企業は、中長期にわたる不透明感に晒される。AIの成長性に注目が集まる一方で、地政学的リスクの管理が企業価値評価の新たな焦点となっている。

財務指標に裏打ちされた成長性とブロードコムの回復余地

アナリストがAVGO株に対して強気姿勢を崩さない理由は、明確な業績データに基づいている。同社は過去10年間にわたり、売上・利益ともに年平均で二桁の成長率を維持しており、特に直近の四半期決算では、売上が前年同期比25%増の149.2億ドル、EPSは1.60ドルと市場予想を上回った。また、営業キャッシュフロー61億ドル、フリーキャッシュフロー60億ドルという潤沢な資金創出力を維持しており、現金保有も93億ドルと盤石である。

さらに、AI分野における44億ドル規模の売上見通しや、新製品「Brocade G710スイッチ」の投入、PCIe Gen6光接続のデモンストレーション実施など、技術革新に裏付けられた事業戦略が進行中である点も、評価の根拠となっている。2025年度の業績見通しは引き続き堅調であり、収益成長率26.62%、利益成長率20.33%と、業界中央値を大きく上回っている。

アナリスト31名のうち28名が「ストロングバイ」、3名が「ホールド」とする構図は、これら定量的な根拠の積み上げによるものだ。目標株価244.96ドルという水準は、現在の水準から約47%の上昇余地を示している。ただし、こうした予測には政策変動リスクやグローバルサプライチェーンの変化といった外部要因が影響し得るため、単純な数値の積み上げだけでは不十分であることにも留意が必要である。

Source:Barchart